盆踊り

 それは、国鉄が国鉄でなくなってからも、しばらくは続いていた、

 はずだ。

 当時は、我が家にとっても恒例行事であったから。

 地域の皆さまへのご奉仕、という名目だったのか、

 職員は家族総出で手伝うのも常だった。


 八月。

 お盆と呼ばれる時期がやってくる。

 普段は職員の駐車場として使用している土地に、やぐらを立てると、それだけで、見えるのだから不思議だ。


 夕方。

 五時を過ぎても昼の明るさが名残惜しそうに留まっていたからなのか、

 通り過ぎるようにあたりを濡らしていった夕立は、

 夜の香りを置いて行った。

 この頃は、打ち水をすれば、涼しさを感じられる時代でもあった。


 昼間の作業で濡れた汗を夕立というシャワーで洗い流したかのように、男達の声が喜々としてきた。日焼けのほてりを上塗りする、アルコールが配られた。


 六時も過ぎると、祭りの準備は整った。テントの下には、手ぬぐいを下げた男達の顔が並んだ。机の上にはスルメイカ。


 七時。

 やぐらから太鼓が

 トトン 

 と、鳴らされる。

 続いて、笛の音。


 唄が始まると、踊りの輪が自然と出来上がっているから、不思議だ。


 ちん とん しゃらん


 浴衣の袖を絞るように、掲げた腕が視線をいざなう。


「いってくる」

 と駆け出し、輪の中に入る女の子。ベテランの女性の後について、大人顔負けのしぐさで踊る。

 指先まで伸ばした手、小首をかしげ、下駄を鳴らして。

 曲が変われば、

 跳ねる兵児帯。

 下駄がすり減ることさえ、勲章であることを知ってか知らずか、

 かっ かっ

 と、地面をこすって。


 その姿は、テント下にくすぶる たばこの煙の向こうの景色だった。







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