サマーランドリー
九戸政景
本文
カンカン照りの夏の日、古びたコインランドリーでおれはベンチにスーパーの袋を隣に置きながら座っていた。母ちゃんに手伝わされて洗濯物をここに運び、待っている間に買い物を済ませたまではよかった。けれど、母ちゃんが買い忘れたのがあるとかで俺にこの荷物を任せてきたのだ。
「あっつ……ここ、クーラーあんま効いてないじゃん」
たぶん動いてはいるのだろう。けれど、動いてるとは思えないほどに中は蒸し暑くなっていて、流れた汗が染み込んだ事でシャツは体にピッタリと張り付き、ズボンの中や靴の中もなんだか温かくて気持ちが悪かった。
後ろではまだ動いている機械がゴウゴウと音を立てていて、俺しかいないからその音だけが響いていた。そうして母ちゃんの事を待っていた時、入り口が開く音が聞こえてそちらに顔を向けた。
けれど、そこにいたのは母ちゃんじゃなく、少し大きめのバッグを持った長い茶髪の女の人だった。その女の人は二十代後半くらいっぽく見えたけど俺の父ちゃんくらい背が高くて、白いタンクトップに青いショートパンツという格好だったからかおっきい胸も尻も強調され、くびれた腰回りやしっかりと見えているへそ、そして肩の辺りにはブラの紐も見えていたため、俺はドキドキしてしまった。
そしてその人は中に入ってくると、おれがいるのに気づいた様子で少し厚めの唇を開いた。
「あら、ぼく一人?」
「そ、そうだけど……」
「その様子を見る限りだと……お母さんに荷物番をお願いされたのね。ふふ、まだ小学生くらいなのに偉いわ」
「そんな事……ないけど……」
照れから少し素っ気ない態度を取っても女の人はクスクス笑うだけで、ウチの洗濯物を洗ってる機械の隣を開け、慣れた様子で洗濯物を取り出し始めた。キャミソールにジーパンが出てくる中、少し大きめな黒いブラやパンツなども出てきて、それだけを着ている女の人を想像してしまってドキドキすると同時にズボンが少し張ってしまった。
「まだ小さい子だけど、ぼくも一人の男なのね」
洗濯物をバッグにしまい終えた女の人がおれを見ている。具体的にはズボンの辺りを。
「あ、えっと……」
「ふふ、エッチ」
「こ、これは……」
「そうさせちゃったお詫びをしたいところだけど……」
女の人はおれに近づいてくると、おれの剥き出しの膝を軽く撫でながら顔を近づけた。首から胸元にかけて汗が垂れているのやタンクトップの中の赤いブラや軽く汗が滲んでいる谷間も見えていて、俺の息はとても荒くなっていた。
「でも、まだダメ。そんな事したらぼくにも迷惑をかけちゃうものね」
「あ、あ……」
「ここにはよく来るからぼくの成長を楽しみにさせてもらうわね。それじゃあ」
女の人はおれから離れるとそのまま入り口を通って出ていった。程なくして母ちゃんが来て、おれ達も洗濯物をしまって帰ったけれど、確認してみるとおれのパンツは少しだけ湿っていた。それからというもの、おれは度々コインランドリーを立ち寄ったり洗濯物がある時に積極的についてったりしたけれど、あの女の人と出会う機会はなかった。
そして時が流れて俺も中学生二年生になり、夏休みのある日にコインランドリーに洗濯物を持っていくように頼まれた。筋トレやランニングをするようになったからか身体も筋肉質になり、少し多めの洗濯物でも普通に持っていけるようになっていた。
「はあ、あっつ……」
俺は天井を見上げながらタンクトップの胸元を軽く扇ぐ。あの人に会った日もこんなに暑い日だった。そして今みたいに俺一人だけだった。
「あら……」
それを聞いて声がした入り口を見る。するとそこには、あの日と変わらない姿をしたあの人がいた。
「ふふ、久しぶりね。ぼく」
その人は嬉しそうに笑ったが、目は妖しい光を宿していて、少しだけ開いた唇を血のように赤い舌がペロリと舐めた。
サマーランドリー 九戸政景 @2012712
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