かくれんぼ  3

「あ、ありさ、ありさ……」

「んーなにー?」

「あいつ、あいつ」

「なにが?」

「だから、あいつ」

「あ」


 ありさが私の視線の先をチラリと追う。いかにも平凡、いかにも目立たないどこにでもいるような男がこちらに視線を投げているのに気がついたようだ。


「あいつ?」


 ありさは見ているのを気づかれないように、口だけで聞いてくる。


「そう……」

「なんか普通のやつっぽい……」


 そう、見た目が普通なだけに余計気持ちが悪いのだ。ありさもそう思ったようで、こっそり嫌そうな顔をする。


「偶然かな?」

「わかんない」

「なんにしても今日は私もいるんだし大丈夫だよ、2人だったら」

「うん、ありがと、心強い」


 持つべき者は親友だとちょっとホッとする。気持ちの悪さは消えないが。


 段々と授業が終わる時間が近づいてくる。いつもなら早く来いと思うその時間が来るのがなんとなく怖い。ありさが汗ばんでいるのは夏のせいだけではないだろう。


 き~んこ~んか~んこ~ん


 鳴ってほしかったような鳴ってほしくなかったようなチャイムが鳴った。


「いこ……」

「うん……」


 ありさと2人、手早く荷物をまとめて教室から出る。大きな階段教室だ、動く学生もそれなりの数いる。紛れるようにして扉の一つから外へと出た。


 長い廊下を早足で歩く。


「来てる?」

「わかんない」


 振り向くのも怖いので正面を向いたまま二人で言葉を交わす。


「ちょうどお昼でよかった」

「うん」


 ありさが言うようにこちらは学食へつながる廊下だ、進めば進むほど人が増えて紛れやすくなる。


 食堂へ行く振りをしてサークル室へ行く。サークルはごくごくありふれた映画サークル。映画といっても撮るのではなく見る方だ。数人が集まって映画を見てわいわい言うだけ、それだけのお遊びサークル。少しきしむドアを押して室内に入る。ここまで来てしまえばもう部外者は入れないはずだ。


「はあ、よかったあ…………」

「うん、ほんと…………」


 ありさと2人、ぺたりと椅子の腰を下ろす。


「なんだあ、どしたの2人共」


 2年のみつき先輩が心配そうに声をかけてくれた。


「先輩~」


 ありさが泣きそうな声を出す。


「ちょっと聞いてくださいよ、この子ね」

「うん、って、あれ?」


 先輩が私が背負っていたらリュックを見て言った。


「このはみ出してるの何?」

「え、なんですか?」


 みつき先輩が手にしたそれを見た途端、私は叫び声を上げていた。


 あれが、あの、ジュエリーブランドの包みが、どう見ても指輪が入ったあの箱だった。




※「小説家になろう・夏のホラー2021」に参加するために書きました。投稿日は2021年8月26日です。


「ホラー」として他の話を考えて書き始めたものの、途中で「かくれんぼ」というテーマがあるのを知り、慌ててて書き直したのでほぼホラーにもなっていないという情けない作品ですが、締切ぎりぎりに思いついて書き始めて無理やり結末まで持っていった自分をほめてもいる作品です(笑)

元のタイトル「かくれんぼ ~いても見えない誰かがいる~」全20話の第3話になります。


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