かくれんぼ 2
地方からそこそこ都会の街に出てきて3ヶ月、田舎の広いだけの実家からワンルームの生活にも結構慣れたが、このご時世、授業の半分は今もリモートだ。サークル活動も、それは
今日も一番仲がいいありさに急いでテレビ電話をかける。さっきあった出来事を誰かに聞いてもらいたい。
「え~なに~それ、きも~い。てかさ、なんで今日がっこだったわけ?」
「しょうがないじゃん、レポートが1本締め切りだったんだから」
「あ~あたしが取ってないあれか」
「そうそ」
「なんであんなの取っちゃうかなあ」
「だって、そんな厳しいなんて知らなかったし」
「なんにしても運が悪いね。そんで、遅れてごめん、ハピバ!」
「おー、ありー!」
今日のことを愚痴っているうちに気持ちが晴れてきた。
「とにかくさ、今度は一緒にいてくんないかな?」
「そいつ、また来るかな」
「分からないけど、来たら嫌じゃん」
「試験前で学校行く回数増えるしねえ」
「とにかくおねがい!」
「まあ分かったよ。来なきゃ来ないでいいしね」
「うんうん」
そんな会話をしてたら他のサークル仲間もやってきて、リモート飲み会(未成年なので一応ジュース)からオンライン誕生会になってしまった。おかげですっかり変な出来事を忘れてしまっていた。
それからも登校はなし。授業はすべてリモート。蒸し暑い外に出ずに済んでラッキー! ぐらいの気持ちでのんびり授業を受ける。
そんなこんなで数日が経ち、あの出来事も記憶の隅っこに追いやれた頃には月が変わっていた。
史上最も長いのではと言われる梅雨はまだ明けない。ただ空だけがなんとなくどんよりしてる。そんな中、オンラインじゃない授業があり、私は約束通りありさと待ち合わせて大学へ行った。
「いないんじゃない?」
「うん、いないかな」
「よかったじゃん」
「だね」
2人で並んで席に座る。周囲を見渡すが、あの時の男はいないようだった。
「っていっても、よく覚えてないんだけどね、顔」
「なにそれ~」
「だって記憶に残らない顔だった」
「その上これだもんね」
ありさがマスクをぼよんと引っ張った。2人でくすくす笑っていると教授が入ってきて授業が始まる。
リモートにすっかり慣れてしまっているからか、普通に受ける授業の方が偽物みたいな気がする。「どこなのここ?」な感じ。妙な時代になったものだ。
それでも板書を一生懸命ノートに写す。必修教科だ、落とすわけにはいかない。
授業に集中する。結構真面目なのよ私。
そうして、ふと気がついたら、ありさの隣の隣、通路を挟んだ向こうのエリアの席から誰かがこっちをじっと見ているのに気づき、鳥肌が立つ。
あいつだ、間違いないあの男だ。こっちをじっと見てる……
※「小説家になろう・夏のホラー2021」に参加するために書きました。投稿日は2021年8月26日です。
「ホラー」として他の話を考えて書き始めたものの、途中で「かくれんぼ」というテーマがあるのを知り、慌ててて書き直したのでほぼホラーにもなっていないという情けない作品ですが、締切ぎりぎりに思いついて書き始めて無理やり結末まで持っていった自分をほめてもいる作品です(笑)
元のタイトル「かくれんぼ ~いても見えない誰かがいる~」全20話の第2話になります。
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