10連休といつかの夏
世界的大運動会だのなんだので休日が動き、それプラスお盆休み、世界的流行り病の影響の不況だのなんだので従業員全員休めとの会社からの指令、おかげで10連休などというものをゲットしてしまった。
「さあて、どうしようかねえ」
テレビ電話で親友のさえとぶつくさぼやく。
「あたしだってどうしていいもんか」
さえの職場でも同じようなこと、私と同じく10連休をもらえてしまったようだ。
さえとは幼馴染、職場が違うので棲家も少しばかり離れているが、時間があればこうしてだらだらと話すのは相変わらず。
今はどちらも恋人もなく、余計に持て余した時間を缶チューハイなど飲みながら、だらだらだらだらと話し続けてしまう。
「ほんと、どうすっかねえ。いつもだったらなんとかスケジュール合わせてどっか行ってたじゃん?」
そうなのだ。なんとか数日の休みを合わせ、どこかに2人で旅行するのが夏の楽しみの一つであった。そのためにお盆は仕事、少しずらせて休みをとる、とかね。
「いきなりさあ、世間と同じ時に10連休なんて言われてもねえ」
「ほんとほんと」
「今年はさあ、家に帰るわけにもいかないじゃん?」
「それなのよねえ……」
うちは祖父母はなんとか2回終わったが、両親がまだ何も打ててない。もちろん私も。
さえのうちは祖母しかいないが、そちらは施設に入ってて、帰っても面会にも行けない。もちろんご両親もさえもまだ未接種だ。
ご近所なのでどっちの事情もお互いによく知ってるが、どっちもどっち、都会で働く娘がのこのこ帰りにくい状態である。
「うろうろ遊びに行く気にもならないし」
「ほんとよねえ」
ぷしゅっ!
そう文句を言いながらお互いに2本目を開ける。
「部屋の片付けでもやるかって思ったけど、朝起きたらもうめんどくさくてさ」
「あんたってそういうとこあるよね」
さえが口をつけたばかりの缶から口を離し、くくくくく、と笑う。
「夏休みの宿題だってさ、いっつも今年は早く終わらせるって言いながら、最後の最後に必死でさ」
「さえだって変わんないじゃない」
「まあねえ~」
お互いに笑い合う。
「そんでさ、どうする?」
結局話はそこに戻る。
「まあ~、たまにご飯ぐらい行く?」
「それなんだけどさあ、それがよくないって話もあるじゃん?」
本当のところは分からないが、確かにそういう話はある。
「あたしさあ、せっかく今まで生き延びたんだから、ちょっとでも危険は回避したいわけよ」
「生き延びた、ってさ」
今度は私がくくくくく、と笑う。
「いやいや、マジよ」
音を立ててさえが缶をテーブルに置いた。ぐいっとカメラに近付いてくる。
「さえ、顔でかい」
「失礼ね、小顔マッサージ欠かしてないよ」
ふんっと頬を膨らませて見せる。
「でもまあ、ほんと、生き延びてるのよあたしら」
「なんか、おばあちゃんから戦争の時の話聞いてるみたいだよ」
夏だし、テレビをぼーっと見てると祖母と同じぐらいの年代の人が色々話をしてるのを見かけることがよくある。
「いや、一緒だって、それと」
「ええー」
「いやいやマジだって」
「うーん、言われてみたらそうかも……」
「でしょ?」
このところ、私らの年代が一番多いとか話題になってる。
「テレビとか見てると、うろうろ飲み歩いてるのとか多いけどさ、あたしらの周囲、そんなんいる?」
「いや、私のまわりにはいないかな」
「でしょ?」
「うん」
「こういうのもさ、なんてか類友?」
「あー、あるある」
「でしょ?」
「うん」
そうなのだ。さえだけじゃなく、その他の友人、職場の仲がいい人、みんなこの連休もステイホームだ。他の人ともやっぱり同じくうだうだと同じことをぼやいている。
「まあ、色んな人がいるから、それをどうとかは言いたくないけどさ、こうして引き篭もって命をつないでいるわけだ、あたしらはさ」
「そだね」
「その分お金も貯めといて」
「ってほどないけどさ」
「まあ多少はちゃうだろ?」
「まあねえ」
「そうしておいて、収まったらどーん! と遊ぶ、その予定しとこうよ」
「その時には10連休なーんて取れるかどうか、だけどねえ」
苦笑しながらそう言う。
「まあね、その時はその時よ」
「まあねえ」
「だからさ、これも宿題よ」
「宿題?」
「そうそ、人生の宿題」
「生き延びることが?」
「そゆこと」
うーん、と私は考え込んだ。
人生の宿題か。確かに、今年の夏は一度だけだが、生きてさえいれば来年も再来年も、その先もずっと夏は来るのだ。
「ま、なんだかんだ言っても生き残ったもんが一番強いの。あたしが行きつけのミュージックショップの店長がそういうこと言ってたのよ」
「なんて?」
「絶対誰より長生きしてやるんだって」
「うん、そんで?」
「そして、誰も反論できなくなってから、みんなのこと好き勝手言ってやるって」
「なにそれ」
私はぶふっと吹き出した。
「いや、奥さんの尻には敷かれる、奥さんの親にはうじゃうじゃ文句言われる、挙句の果てに子どもたちには無視されるで、なかなかきびしい人生らしいんだわ」
「そんで生き残って好き勝手か」
「そゆこと」
2人で笑う。
「でもさ、案外真実かなとも思うわけ」
「そう」
「何より生きてないとね。だからさ、10連休一歩も外から出なくても、それで生き残れるならまあいいかな、と」
「まあ、人と会う機会もなくなるわけだからね」
「そそ」
「言われてみればそうかな。超暑いしね、温暖化。おまけに雨、大雨」
「でしょ? これってさ、家にいなさいって神様からの課題みたいに思えん?」
「あ~そっちか」
「そそ」
「まあ、考えられないことはないけど」
「それを、守れた人だけが生き残れる、どう?」
「きびしい宿題だなあ」
そう言って私は笑った。
「でもそういうの、嫌いじゃない」
「だろー?」
さえが得意そうに缶チューハイを口にする。
「まあさ、せいぜいあんたとこうして管巻いて、怖いもんから遠ざかって、そんで生き延びて、いつかの夏を思いっきり楽しむ、どう?」
「いいね」
画面越しに乾杯をする。
「まあ、せいぜい宿題ちゃんとやろうよね」
「うん、ギリギリになってもね」
そう言ってまた笑い合う。
そういう考え方もあるのだな、と思った。文句ばっかり言っても仕方ない、今、何をするのが一番いいのか、それを考え、それを守るのも人生の課題なのだろう。
だから、私とさえは課題をクリアして、「夏を楽しむ」という宿題のために、今日もこうしてぐだぐだと文句をたれ、エアコンの効いた部屋で大人しく引き篭もっているのだ。
休みの間続くという雨の音も、そう考えると明日のため、いつかの夏のためのエールに聞こえる気がする。
少し気楽になった私は、また一口グビリと缶チューハイを口にした。
※投稿サイト「ノベルアップ+」で2021年「夏の5題小説マラソン・第五週「宿題」」に参加するために書きました。投稿日は2021年8月12日です。
企画は第五週まで続き5本の小説を投稿していますが、その五番目の作品となります。
ちょこちょこっと手を入れてはいますが、ほぼ当時投稿したそのままです。
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