【完結】放課後、幼馴染と二人っきり。

あるふぁ

ASMR #1 放課後、幼馴染に起こされる

 放課後、私は幼馴染の家へ向かう。

 数え切れないほど行っているのだから、今ではすっかり習慣になっている。


 日常の一部、といっても良いかもしれない。

 彼の家は、私にとっての第二の居場所みたいなものだから。



 きっかけは、去年の五月――高校生になって間もないときだった。

 幼馴染に頼まれたのだ

『放課後、家に来てくれないか』と。

 彼によると、『平日はできるだけ来て欲しい』とのことらしい。


 そして、その「理由」を聞いて、私はその頼みを引き受けた。

 迷いもしなかった。


 その日から、部活をして、彼の家に行って……という習慣ができた。



 そうはいっても、私たちは昔からほとんど変わっていない。

 変わったのは、彼の家に行くができたこと。

 究極的には、それだけだ。




────ここからASMR────


 幼馴染は寝起きが悪い。

 だから、電話を鳴らし続けていても、なかなか起きない。


「…………」

「…………」

「やっと出たわね…………謝罪はいいから早く開けて」


 電話越しに階段を駆け下りる音が聞こえてくる。


「急がないでいいから。転ばないようにね」


「どうだか。ちょっとした段差に…………」



「ねえ、いま転びそうじゃなかった? 気の所為かしら」

「まあ、いつものことだもの。で、実際のところどうなの?」


「やっぱり。そんなに急ぐ必要ないから」


「部屋に戻ろうとしないの! 少しは急ぎなさい!」


「……? 幼馴染だもの。分かるに決まってるわ。あなたの行動はお見通し」


「話を戻すけれど、戻るのは論外」

「ただ、走る必要はないわ。それでも、玄関前に長居するのは嫌だし早く開けてね? じゃあ切るから」




 通話を切断してからしばらくして、ドアを開けてくれた。


「おはよう」

「やっぱり寝てたんだ」


「そりゃそうだと思った」

「だって、通話中も半分寝てたし」


「だから謝罪はいいって……。そんな待たされてないし」


「まあ、結構鳴らしたんだけど」

「近所迷惑にならない程度には、だけどね」

「その後、電話かけてみたけど、出るの遅かったなぁ。全然反応してくれなくて」


 実は、電話をかける前、何度かインターホンを押していたのだ。

 早々に見切りをつけて、電話に切り替えたのだが。




「(めっちゃ焦ってる……怒ってないのに)」


 少し からかっただけなのに。可愛い


「? 何にも言ってないよ」


「大丈夫。怒ってないし。怒ってたとしても、小声で言わないもん」

「でも、うーん……そこまで言うならアイス一本で許してあげる」

「次からはもっと早く出るように!」


「いや、そうは言ってもすぐに開けろとは言わないからね?」

「でも、昼寝はやめておきなさいよ。夜寝られなくなるから」

「あんたも分かってるんでしょうけど」


「そうそう。本末転倒だものね」




「っ……!? 気が利くじゃない。あんたの口から、気遣いの言葉が出る日が来るなんて」

「『そろそろ入らない?』って気を遣ってるのも凄いけど、『話すのもいいけど』って始めてるのも……。完璧!」


「誰が、部屋に、行きたそうに、してるって?」


「暑そうにしているのは認めるわ。実際暑いし」


「えっ、それ以外? 無いわよ!」


「そうよ、早くあんたの部屋行きたい。それは確かだから否定しない」

「ただ勘違いしないでほしいのは、あんたの部屋の居心地が良いってだけ」


「いやっ、そうは言ってな……。ただただ落ち着くの。気を張らなくても良いっていうのかな……」


「とにかく、あんたと二人っきりだと素を出せて、あんたの家にいると落ち着くの!」


 本音が漏れ出た。


 彼も、『私と一緒だと落ち着く』と言っていたことがある。

 彼の言葉が本心なのかは分からないが、少なくとも、さっきの言葉に嘘はない。



「落ち着くって言うのは……ね、快適っていうか…………居心地が良いっていうか……この話終わりっ! ただでさえ暑いのに、こんな狭いところに居たら暑くて仕方ないでしょ! だから、話し込むのはやめよ」


「よろしい。とにかく部屋行こ!」


 私は、駆け足で特等席に向かった。

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