失恋回数100回の僕の前に現れた【天使】みたいな運命の人、ガチで【天使】だった。
こばなし
第1話 運命の人
『やっと来れたわね』
『ああ』
神社の前に立つ、仲睦まじげな夫婦。
妻のお腹は大きく、夫は彼女を気づかうように肩を支える。
『それじゃあ、お祈りしよっか』
『うん』
夫が五円玉を賽銭箱に投げ入れ、二人はそれぞれ両手を合わせしばし瞑目した。
『なんてお祈りしたの?』
目をあけた妻が夫にたずねる。
『僕は感謝をささげたよ』
夫も目を開きそれに応える。
『奇遇ね。私もよ』
夫婦はほほえみながら言葉を紡ぐ。
『『二人が出会えた良縁に』』
同じタイミング、同じ言葉。
シンクロする互いの想いに幸せな空気が二人を包む。
『それから、この子が運命の人と巡り合えるようにお願いしたんだ』
『うん』
夫は再び妻の肩を支え、もう片方の手で彼女のお腹に手を添える。
妻は夫の手に自らの手を重ね合わせた。
『……そういえば、やっと考えついたよ』
『この子の名前ね?』
『ああ』
妻が夫の目を見つめ、先を促す。
『将来、誰かにとっての唯一無二の一人になれるように』
夫が語ったのは生まれ来る子どもの名の由来。
『この子の名前は――』
◇
「
放課後、教室。
僕の前には呼び出しに応じて来てくれた、他のクラスの女の子が立っている。
「来てくれてありがとう。実は……」
僕はこぶしに力をこめ、勇気を振り絞る。
「君のことが好きなんだ。僕と付き合ってくれないか?」
まっすぐに彼女の瞳を見つめて想いを告げると。
彼女は申し訳なさそうに口を開いた。
「あ、あのね。一人くんのこと、すっごく素敵で見た目もタイプだけど……」
だけど……?
「付き合うと何かヤバいことが起こる予感がするの。だから――ごめんなさい!」
彼女はそんな断り文句を告げ走り去っていった。
「はぁ、今回もダメか」
僕は深いため息と共にうなだれる。
(これで通算100回目の失恋か)
僕、
いい雰囲気にはなるのに……その先はない。
(呪いにでもかけられているのだろうか)
そんなありえない想像さえしてしまうほど恋が実らない。
苗字は「もてなし」、名前は「ひとり」だし、なんとなく非モテを連想させる言葉なのもよくないのかもしれない。
両親は「必ず運命の人と巡り合えるから心配するな」なーんて豪語してるけど……
(その兆しは一切ないんだよなあ)
このままでは生涯独身で一生を終えてしまうかもしれない。
なんとかならないものか。
「あっ、そういえば」
僕は歩きながら、ふと昼休みのことを思い出す。
親友の
僕はそういうものを信じるタチではないけれど……
(きららにもあんな風に言われたしなあ)
幼馴染の女の子——
(くそ、今に見返してやる)
彼女の表情を思い出し、負けん気が湧いてきて。
ダメもとで神社に行ってみることにした。
(たしかすぐそこだった気がする……あ、あった)
その神社……
「素敵な恋人と出会って……その人を幸せにできますように」
僕はそこへ立ち寄り、賽銭箱に五円玉を入れて手を合わせた。
◇
それから数日後の放課後。
いつものように家に向かって歩いていると。
(背後から視線を感じるような……)
しかし何度振り返っても視界に人影はない。
(気のせいだろうか)
そう思って歩みを続けることにしたのだが。
「わーお! 君、可愛いね」
後ろから声がして思わず振り返る。
「すごいねその衣装」
「輪っかとか羽根とか、本物の天使みてーじゃん」
そこには一人の女性を囲む、ガラの悪そうな男たちの姿があった。
「あ、あの、通してもらえませんか?」
「えー、そんなつれないこと言うなよ」
ここからは表情まではうかがえないが、声音から察するに女性は困っているようだ。
(助けなきゃ)
使命感に駆られ、僕の足が男たちに向かおうとする。
が、
(ちょっと怖いなあ……)
怖気づいて立ち止まる。
ろくに運動もしてなければ、ケンカの経験もない。
殴り合いにでもなれば十中八九僕に勝ち目はないだろう。でも、
(……だから何だっていうんだ)
ここで見て見ぬふりをすれば、きっと後悔する。
逃げた自分に対して自信を抱けないまま過ごすことになるはずだ。
ひいてはリア充への道も遠のくに違いない。
(ええい、ままよ!)
僕はおびえる足を無理やりに踏み出し、歩き出した。
「お、おい、その人から離れろ!」
震える声を振り絞り、叫ぶ。
「おや~? 何こいつ?」
「無個性な顔立ちだねえ僕」
「ははっ、3秒後には忘れそうな顔だw」
男たちは僕を見下してけらけらと嗤う。
(くそ、怖ええ!!)
彼らは金髪、鼻ピアス、モヒカン頭と、不良を絵に描いたような容姿だった。
「で、何? 俺たちこの天使ちゃんと遊ぼうとしてるんだけど」
「見え透いた嘘を言うな。これ以上その人を困らせるなら、コレだ!」
そう言って僕が懐から取り出したのは――
「げっ!?」
「防犯ブザー、だと!?」
小学校のころに防犯用に配られたブザーだった。
「高校生になってなお持ってやがるとは!」
「ずらかるぞ!!」
騒動になることを恐れたのか、ヤンキーたちは思いのほか簡単に逃げてくれた。
(いやあ、実際に役に立つ日が来るとは)
ちなみにブザーはとっくに電池が切れており、抜いても音は鳴らない。
これでやつらが逃げてくれなかったら危なかった。
「あ、あの……」
逃げ去るヤンキーたちを見送ると、背後からか細い声が。
「ん? ああ――」
振り返り、女性の姿を見て思わず硬直する。
金髪のキュートなセミロング、この世の者とは思えない透き通るような白い素肌、きらきら輝く瞳にあどけなさの残る愛らしい顔つき。
ただそれだけでも驚きの理由としてはこと足りる。
けれど、それ以上に衝撃的だったのは――
頭上の光輪と、背中に生えた大きな羽、美しい両肩を露出させた純白のノースリーブローブ。
まさに天使のようなその衣装だった。
(すごいクオリティのコスプレだ)
全く違和感がないその美貌に唖然とさせられるほどである。
「あ、あの……」
「へ? あ、ああ、ごめん」
僕はしゃきんと表情を締めて彼女に向き直る。
「ああ、良かった。あの……助けてくださりありがとうございます。それでは――」
彼女は深々とお辞儀をして、僕に背を向け歩き出そうとしたが。
「待って」
僕は気付けば、彼女を呼び止めていた。
「僕……君に一目ぼれしちゃったみたいなんだ。良かったら……僕と付き合ってください!」
「え、ええ!!?」
突然差し出された僕の手に驚く彼女。
「お願いします!!」
「……う、嬉しいです……」
お?
「けど」
けど?
「私、あなたとは付き合えないんです……」
えええ―――っ(泣)
「でも今、嬉しいって」
「はい。確かにそう言っていただけて嬉しいんです。けれど――」
彼女は背中の羽を広げ、どこからともなく現れた弓矢を携えて宙に浮いた。
「私、キューピットなんです」
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