第30話感動凛③

私がショーツに手をかけると同時にこの部屋のドアが開いた。


「──凛!」


 その男性の声にショーツにかけていた私の手が自然とショーツから離れていく。


「な、なんだね君はっ!?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!?ドアにも書いてあっただろ?」


「悪い。遅くなったな?もう大丈夫だからな?」


 ポンと優しく私の頭に手が添えられた。添えてくれた人物に涙ぐむ目で視線を向ける…。


「…豊…ちゃん…?」


「そうだよ」


 私の大好きな豊ちゃんだ…。でも…なんでここに…?


「ど、どうして…ここに…?」


「それは──」

「お、おい!聞いてるのかね!」


 私の疑問に答えようとしていた豊ちゃんの声を遮る形で男性が大声で叫ぶ。


「うるさい…黙ってろ…」


 今まで聞いた事がない豊ちゃんの冷たい声が部屋の中に響き、男性を睨みつけるその視線はとても鋭い…。



『と、豊ちゃん…もしかして…怒ってる…?』



 初めて見る豊ちゃんのそんな姿に私は少しビックリしてしまった。怒ったところなんて見た事がなかったからだ。こんな時なのに私の為に怒ってくれてるんだろうかと思ってしまう馬鹿な私もいる。


 男性は男性でそんな豊ちゃんに怯みながらも言葉を紡ぎだした。


「…あっ!?そ、その顔はっ…!?た、確か…昨日この子と一緒にいた…」


「ごちゃごちゃ言ってないで…歯を食いしばれ!」


「はっ? ぶふぅ…!?」


 私の視界の中に居たはずの豊ちゃんがいつの間にか消えた。パッと声がする方に視線を向けると拳を振り上げた豊ちゃんの姿が再び視界の中に入ってきた。同時に鈍い音が聞こえてきて、男性が顔面を殴られて仰向けに床に倒れ込んだ…。殴ったぁぁぁっ!?


「いだいっ!?いだいっ…な、何をするんだ…ぜ、絶対に許さ──」

「絶対に許さないのはこっちのセリフなんだよ。俺の大切な人に何しやがった?」


 男性は上半身を起こし殴られた顔に手をあてている。


 私はというと…


 そ、そんな…た、大切って…私の事だよねっ!?大切って言ったよね!?豊ちゃんが口にした大切という言葉がリフレインしていた。


「う、訴えてやる…からな…この怪我の慰謝料も…お前の彼女の恥ずかしい姿もネットに晒して──」


「やってみろよ?」


 えっ…と…やってみろって言った?と、豊ちゃん…マズイんじゃないかな…?いくら私をもらってくれる(※言ってない)といっても…流石に私…恥ずかしいんだけど…?


「お、脅しじゃないぞっ!?」


「だから…やれるならやってみろって」


「い、言ったのはお前だからな!?」


 男性が携帯をタップしてる…。いやいや…マズイよっ!?


「と、豊ちゃん」


「大丈夫だよ、凛?さっきも言ったろ?」


「へっ?」



 私がほうけていると、男性の慌てふためいた声が部屋に響いた。


「ななななっ…何でっ!?何でネットに繋がらないんだ!?で、電波が…立ってない…?」


「だから言ったろ?やれるならやってみろって?お前の携帯はどこにも繋がらないぞ?それにさぁ…お前こうして女性を脅すの初めてじゃないだろ?それで味を占めたんだろ?」


「な、なんで…」


「…パソコンに色々入れてたみたいだし?」


「なんで!ソレを…し、知って…!?」


「それらしきファイルがパソコンに入ってるのはすでにから聞いてるんだよ!」


「な、何で…誰が…」


「そろそろその頃だし、もうすぐここにも警察の人達が来る予定だよ」


「う、嘘だ…!なんで…警察が…!?そんなの…嘘に…」


「お前が信じようが信じまいがどっちでもいいんだけどさぁ…は…俺の大切な凛を脅した事とお前に脅された女性達の分な?とてもだけじゃあ足りないけど受け取っとっけっ!」


 豊ちゃんは座り込んでいる男性にそう言葉にしながら近付くと──


「…へっ…? はぐぅ!?…っ──────」


 股間に目掛けて足を振り下ろし…グチャッ!と…その…あの…男性の大切なを潰したそうだ…。男性はあまりの痛みに悶絶…泡を吹いて気絶してしまっている…。豊ちゃんは続けて男性の携帯を手にしてポチポチ操作した後に携帯をバキっと踏み壊した…。


 私はいいのかな?と、まず思ってしまう。証拠とかそういうのになるんじゃないの?って。

そんな心配をよそに豊ちゃんはいつも通りの優しい表情に戻り、私の方へと歩いてきた。そして…ポンとまた私の頭に手をのせてこう言ってくれたの…。


「凛が心配するような事はもう何もないからな?怖い思いや辛い思いをさせてしまったけど…凛が怖くなくなるまで勿論傍にいるし、辛いって思ったら呼んでくれたらいつでも駆けつけるし、話を聞くからさぁ…だからな…?すぐには無理なのも分かってるうえでこう言わせて欲しい。こんな事があったって事は早く忘れてしまえって…その為に俺ができる事はするから…」




「…豊…ちゃん…豊ちゃぁぁぁぁぁぁん…」


 

 私は豊ちゃんに抱きついてわんわん泣いてしまった。安心したからだ。怖かったけど助けてくれた。もう心配はないと豊ちゃんが言ってくれた…。それなら…本当に心配いらないと思えたからだ…。










「それじゃあ…行こうか」


「えっ…あっ…うん…その…手を握っていてもいいかな?」

 

「勿論」


 泣き止んだ後、いつまでもここにはいられないという事、ここにいたくないとも言うんだけど…。とにかくどこでもいいから豊ちゃんに触れていたくて帰りは手を握ってもらう事にしたの…。


「あ、あの人はどうするの?」


「うん?心配ないよ?…」


「来てる…?」


 誰が来ているのか聞こうとしたらこの部屋のドアがまた開いた。


「流石ですね…わたくしに気がついていらっしゃるというのに、イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャするとは」


「そんなにイチャイチャしてないですよね!?イチャイチャのイの字もなかったと思いますけど!?」


 

 私はその顔に見覚えがあった。あんまり話する事はなかったんだけど…優花ちゃん達のお父さんの秘書兼護衛の…確か名前は…


「…姫宮ひめみやさん?」


「はい。豊和様の性奴隷兼性管理も任されている姫宮真珠ひめみやしんじゅであってますよ?豊和様のお姉ちゃん的存在でもあります!」


「えっ…?えっ?性…奴隷?って…ええぇ!?」

 

「うぉい!?何嘘言ってんの!?そんな事任されてないよね!?」


「望まれれば相手しますよ?」


「…………いや、そんな事望ま──いてっ!?何でつねるんだ、凛は!?」


「間があったから」


「いやいや…誤解だから…呆れてただけだから」


「…どうだか」



「まあ…そっちは後でこのお姉ちゃんがじっくりまったりねっとりサービスしてあげるとして」


「いらないから!?」


「後はお任せを…。それにしても二度目と使い物にならないようにされたみたいですね?」 


「…足りないくらいでしょう?」


「おっしゃっる通りですね…まあ…した事の重さを必ず後悔させるとしましょうか…」


「後は宜しくお願いします」


「はい!任されました!」

 

「あっ…それと…」


「? 何か他に?」


「いつもありがとうございます。真珠さん」


「っ!? あ、改まって言わないでもらえます?お姉ちゃんでも恥ずかしいんだからね?」


「この借りは返しますね?」


「ええ。楽しみにしてますね?」


 

 むぅぅぅぅ!?なんだかいい雰囲気を醸し出してるんだけど!?私は豊ちゃんと握った手に力を込める。


「痛いから力緩めてくれる凛?」


「…知らない」  



 とにかく…私と豊ちゃんはその場を後にして私の家に向かう事に…帰る事になった。




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