第7話 兄は期待する

 俺(と紗希)の家は一軒家。駅から徒歩22分という微妙な立地にある。私鉄会社系列の住宅会社が開発した戸建て団地にある。似たような規格化された戸建て住宅が建ち並んでいる様はいかにも地方都市だ。


 そんな地方都市一戸建ての常として、子ども部屋は二階に二つ確保されていた。俺の部屋は東側。紗希の部屋は西側。


 家に着いた。俺と紗希が同時に「ただいまー」と言う。返事はない。親父も咲江さんも仕事だから。

 靴を脱ぎ、階段を上る。なぜか、紗希は俺より先に階段を上りたがる。「紗希だけに先なの」なんて紗希はふざけてたが。


 とんとんとん。紗希が階段を上る。紗希のふくらはぎと太ももの裏の筋肉が動く。

 その動きを見るのが俺の毎日のささやかかつ密やかな楽しみだ。


 下着を見たいわけではない。


 もちろん見たいか見たくないかと言われれば、見たい。だが、義妹とはいえ妹。

 妹のパンツを覗き見するなど兄失格なのだ。


 だから俺は紗希の足を見る。紗希の足は美しい。まさに美脚。

 その美脚の筋肉の動きを見るだけで、俺は満足なのだ。


 こういうのを眼福というのだろう。その映像は網膜から視神経へ、そして脳細胞の奥深いところに到達。記憶の殿堂に保存、夜な夜な反芻してはニヤける毎日。


「じゃ、あとでね兄さん」

「ああ」


 階段を上りきり、俺たちはお互い自室へ入った。俺は荷物を置き、制服を脱いで、Tシャツとハーフパンツに着替えた。


 ♡ ♡ ♡


 部屋着に着替え、階段を降りてみると、紗希がブレザーにエプロン姿でキッチンに立っていた。


「あれ? 着替えないのか?」


「うん。このあと、図書館に勉強にいくの。雪と」


 姫島雪。紗希の友人、クラスメイトだ。何度か我が家に来たこともある。


「ご飯食べてから」

「え? そうなの?」


 食後の昼寝、どうなったんだろ? そんな俺の疑問を紗希が感じ取った。


「……もちろん、昼寝してから。ね?」


 紗希が笑顔で振り返った。

 そんな短い時間なのか、昼寝。

 まあ……キスするだけだからな。10分もかからない。


「楽しみにしてるんだ、兄さんとの明晰夢」


 鼻歌交じりに身体を揺らしながら紗希が調理する。ミニスカから見える内股の肉が左右に揺れた。

 ああ、やはり紗希の足は美しい。


「さてと。もうできるよ。お茶と、お箸とスプーン、用意してくれる?」

「わかった」


 急須にお茶っ葉を入れ、ポットのお湯を注ぐ。食器棚から箸と箸置き、スプーンを出してテーブルにセットした。


「兄さん、手早いね。いつもの兄さんとちょっと違う」


 紗希が笑う。


 そりゃそうだ。食後の昼寝が待ち遠しくてそわそわしているのだから。


「はい、兄さん、ピラフとサラダ、そしてわかめスープ。ピラフは冷凍。ごめんね」

「ありがとう」

「どういたしまして。召し上がってね、兄さん」


 紗希がエプロンを外し、テーブルへ。「いただきます」と言ってから、可愛いお口で食事を始めた。


 この食事が終わったら、紗希とキス。あの可愛いお口で……俺とキス。たぶん、舌も入れる。


 そう思うと何も味がしなかった。


 ん? ちょっと待てよ。


 紗希、このまま着替えずに出かけるって言ってたな。ということは……ブレザー姿の紗希が……添い寝?


 このピラフを食べ終われば。このサラダを食べ終えれば。このわかめスープを飲み干せば。ブレザー姿の紗希が一緒のベッドで添い寝してくれる。


「兄さん、今日食べるの、早いね」

「そ、そうかな?」


 明らかに早かった。尋常でなく早かった。俺が食べ終わった頃、紗希はまだ半分も食べ終えていなかったくらいだ。


「それじゃ……紗希。俺、先に部屋に行って……ま、待っとくから」

「うん。食べたらいく」


 食器を下げ、俺は自室へ行った。

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