第6話 興味津々

 「これからは定期的に君の国の食事も用意させよう。料理長から受け取ったメニューには、ポピュラーな料理としてカレーもあった。カレーはインドではなく、日本人の口に合うようなレシピで作られているそうじゃないか。興味が湧くな」

「あんたは他の国の料理なんかは食わねぇの?」

「本で見たことはあるが、作って欲しいとねだるのは、子供じみてて気恥ずかしくて出来なかった」

「日本はどの国の料理も日本人の口に合う料理にレシピを変えて提供されるよ。それこそ世界中の料理が日本では味わえる」

「そうか。それなら君が食べたがっていると言って、料理長に作らせる」

「あっ、ずるいな。それは」

「君だって食べたいだろう?」

「まあ、それは……」


 蓮は上品な出汁で煮含められたがんもどきの煮物を食卓に戻し、味噌汁の椀を手に取った。ああ、合わせだしの味噌汁だ。白飯に味噌汁、漬物に唐揚げときたら箸がもう止まらない。


「箸が進むな」

「そりゃあ日本食なんて久しぶりだし」

「喜んでもらえたのなら私も嬉しい」


 イグジストは優し気に微笑んだ。

 オープンサンドではあまり食が進まないのを気にしていたのかもしれない。

 ただ、それは口に合わないからじゃなく、じっと見つめられているからなのだけれど、彼自身は気がついていないらしい。

 唐揚げに飛びつき、白飯をかき込む姿をイグジストは少しだけ寂し気に見つめてきた。


「俺、オープンサンドやこの国の食事が嫌いじゃ全然ないから。出されたものは全部美味いし珍しい。ただ俺はオープンサンドで育ったわけじゃないだけで」


 一度箸を箸置きに置き、蓮は本心からそう言った。

 使用人は銀のトレーに乗せたのせた日本酒の小瓶の数々を提供してくる。

 日本酒なんて外の世界でも売っているのか。

 だとしたら、街中駆けずりまわったに違いない。


「気を遣ってくれて嬉しいよ。ありがとう」

「私も日本食を堪能した」


 蓮が選んだ小瓶の蓋を使用人が開けてくれた。だが、酌は自分でしたいと思い、小瓶をもらい受けた。

 トレーに伏せて用意された御猪口おちょこをイグジストの手元に置くと、徳利とっくりで注いだ。


「こんなに小さなグラスで飲むのか?」

「確かに、こんなに小さすぎるのは不思議だな」


 蓮は思わず吹き出した。

 

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