小さなベイビー、大きな野望

春子

第1話 入学式 前日

「もういくつねるーと、入学式〜♪」

子供らしい明るい声ではしゃぐ女の子。お風呂に入ったばかりで、従兄弟のマッキーに髪をとかして貰っている。 

大きな鏡の前に座り、呑気に歌うリーサに、ハイハイと相槌をうつ。

「リーサ、良いか、マジで、オフィーリアちゃんやジオルクから離れるなよ!何か気になってもあちこち行くなよ!」

この間、保育園を卒園したばかりのリーサがとうとう、学校に入学をしてくるのだ。

心配でたまらない。

「しってるー。」

嘘つけとマッキーはため息をはく。マッキーは、ゆらゆらと瞳を揺らしながら、器用に、洗った髪を叔母直伝の髪のケアを含めた美容法を実践中。

リーサは、稀に見る不器用で、髪をとかすことも、結くことも出来ないため、マッキーがやってあげている。

「マッキー、リーサの支度終わった?次、使いたい。」

そう声をかけてきたのは、マッキーの双子の弟、オルドー。

「あー。オルドー、何持ってるの?コーラ?コーラでしょ?リーサにはわかるもん、リーサも飲みたいー。」 

「しぃ。リーサ、母さんにナイショなんだから。騒ぐな。」

オルドーは、冷蔵庫から、勝手にコーラを拝借してきたらしい。

バレたら、叱られる。

オルドーは、ブシュと蓋を開けて、コップに注ぐ。

「マッキーとオルドーは、やっぱり、似てるぅ。」

「当たり前だろう。双子なんだから。」

双子の兄であるマッキーは、金髪碧眼。くせっ毛。手先が器用で、面倒見が良い。リーサの兄のような存在。

「ほら、リーサ、こぼすなよ。母さんにも父さんにもないしょだからな?」

オルドーがコップをリーサに渡す。

「ありがとう。オルドー。」

双子の弟、オルドーは、金髪で翠の目をしている。目の色だけが違ってるだけで、あとは、瓜二つの容姿をしている。オルドーもリーサの兄のような存在。

「あのね、もうちょっとで、入学だよ!」

「知ってる。」

リーサが入学をする学校は二人も在籍している。学年は3年生。

マッキーとオルドーは目線を合わせる。

リーサが何て呼ばれているか。

それは、“小さなハルベルのお姫様”

ハルベルとは、我が家の名字だ。ハルベルは、名家の一つである。

リーサは、厳密に言えば、ハルベルではない。だが、みんなが、小さなハルベルのお姫様だといい、有名である。まだ入学すらしてないのに。リーサは、有名人である。

学校側の噂では、リーサが入学してくるとわかって、ちょっと特別な対策が取られた。

いや、今年は、リーサだけが、問題ではない。

そう。リーサと同じく入学を果たす他の子らも同じく、問題がある。

誰かが近づいてきた。

「あら、あなた達、まだ用意してないの?…ほどほどにしなさいよ。フィルに叱られるわよ。」

扉が開いたと思えば、リーサの母であるツェツリーエだ。金髪碧眼で、誰もが認める美女。ナイスバディの持ち主であり、美容にうるさい。

「ねぇねぇ。まま、リーサ、入学式だよ!」

「はいはい、知ってるわ。あんまり、興奮してると、知恵熱を出すわよ。」

「まま、お寝坊はだめだよ!」

「あなたはいい加減、優しい起こし方を身に着けなさい。私に乱暴な起こし方をするのは、あなたぐらいよ!フィルもひどいわ!何もリーサじゃなくてもいいじゃない。お兄様か、サラトガでもいいはずよ!」

朝に弱いツェツリーエを起こす役目として、度々、双子の母であるフィルから、頼まれたリーサが起こす。

ツェツリーエは、双子の父親であるマルクスが溺愛してる妹であり、ついたあだ名は、“ハルベルのお姫様”。兄から溺愛され、周囲に甘やかされるツェツリーエに何かと文句が言えない。それは甥でもある双子達もだ。

「まま、わがまま言っちゃあだめなんだよ?知ってるー?」

「誰がわがままですって?」

「プークスクス。まま。」

「あ…ば…。」

ツェツリーエにそんな口が聞けるのは、娘であるリーサぐらいだ。

眉をひそめたツェツリーエは、笑うリーサに、口を開いた瞬間、別の人間の声がした。

「何をしてるの?…そのコーラは、どうしたの?」

ビクッ。3人は固まった。

双子の母であるフィルが来たからだ。

その後、勝手に、コーラを取って、飲んだことをきっちり、叱られた。









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