第16話 痴態
バルクトライは至近距離にショーティスの姿を見いだしてのけ反りそうになる。
頬を桃色に染めて恥ずかしそうにしている姿はバルクトライを混乱させた。
そうでなくても寝起きで頭がまともに働いていない。
実は女の子だったってこと?
確かに確認はしてないものな。
しかし、女の子か男の子かということは一旦脇に置くとして、なんでこんな状況になっている?
昨夜のことを一生懸命に思い出そうとするが、要塞にたどり着いた記憶すらなかった。
何かの弾みでショーティスをベッドに引きずりこんでしまった?
急いでショーティスの顔を覗き込む。
目に涙の痕がないことを確認してほっとした。
とりあえず、泣き叫ぶようなことはしていないらしい。
その時になってようやくショーティスの服装が目に入る。
パリッとした生地の白地にネイビーブルーのラインの入った従卒の制服を着用していた。
さらに視線をずらすと自らはシャツをはだけているのが目に入る。
下着を穿いていることは大きく固くなったものが擦れているので把握できた。
それはまあ生理現象であるからして仕方ない。
問題は熱くたぎったものがショーティスに押しつけられていることだった。
どこからどうみても激しく欲情しているとしか考えられないだろう。
少なくともショーティスはそう感じているはずだった。
身をすくませながら精一杯腕を突っ張って逃れようとしている。
まだ眠気の抜けきらない頭でバルクトライは考えた。
何があったか把握しなくては。
よく分からないうちにイシュタルにこのことを告げられたら大変なことになる。
済んでしまったことはもう取り返しがつかないにしても、何も覚えていないというのは絶対に怒られるはずだった。
逃れられないように腕に力をこめる。
結果的にショーティスを抱きしめる形になった。
胸と腹に当たっている手のひらの力が緩まる。
抵抗するのを諦めたようにショーティスは力を抜いて顔を伏せた。
バルクトライの焦りが大きくなる。
この諦めの早さは既遂だからなのではないか。
散々弄ばれた後で、もう半ば諦めているのだとバルクトライは考える。
「あ、ショーティス。とりあえず落ちつこう。な?」
落ち着きが必要なのはどちらかというとバルクトライの方であった。
返事はないが腕の中で僅かにショーティスが首を縦に動かす。
「こういうことを俺が聞くのもどうかと思うが、なぜお前がここにいる?」
体を強ばらせるのを感じた。
え?
俺、そんなに酷いことしたのか?
金鹿亭の女の子と寝るときも相手が嫌がるようなことをしたことはない。
焦りまくって返事を待っていると鳩尾の辺りに熱い息がかかる。
声が小さくて聞き取れなかった。
「すまん。もう1度言ってくれないか?」
「……。申し訳ありません」
うーむ。
思い出させるのもやめて欲しい?
これ以上の狼藉は勘弁してほしいということだろうか。
バルクトライは不分明なまま、質問を重ねた。
「それで、なぜ、ショーティスが俺のベッドに?」
「枕の形がぐちゃぐちゃになっていたので直そうとしたんです。引き抜こうとしたら、閣下が握っていたのでバランスを崩してしまいました。眠りの邪魔をして申し訳ありません」
発言の中身を吟味する。
「つまり、ショーティスは俺が起きているか様子を見にきて、枕を取り上げようとして倒れた。そういうことでいいかな?」
「すぐに起きようとしたのですが、閣下に気付かれてしまいました。申し訳ありません」
「あ、そう。そういうことね」
声に安堵感が出ないように気を遣いながら答えた。
ショーティスを押さえていた腕を外しつつ、バルクトライは反対側に体を回転して仰向けになる。
これでいいだろうと首を持ち上げると、盛り上がっている下着が目に入った。
さらに寝返りをしてショーティスに背を向ける。
あっぶねえ。
仮に男同士だとしてもこの状態を見せつけて平然としていられなかった。
ましてや、まだ男の子だという確証が取れていない。
そつの無いイシュタルといえどもショーティスが男の子かどうか目視又は触診で確かめたわけではなさそうである。
もし、やっていても嫌だな。
そんなことを考えているバルクトライの背中側ではやっと呼吸が落ちついたショーティスが反対側からベッドを下りていた。
抱きしめられるし、素肌に触れたし、他にも刺激的なことが多かったので興奮を静めるのが大変である。
急にその気になったのかと期待したが、あくまで寝ぼけていただけらしいということに気がついていた。
自分の魅力による行動ではなかったことは残念ではある。
しかし、最悪の場合、何をしているのだと咎められる展開もありえた。
それを考えれば、バルクトライとのドキドキする時間を持てただけでも運が良かったと考えることにする。
ショーティスはぽふぽふと枕の形を整えてベッドに置いた。
「そろそろ起きられますか?」
「あ、うん。そうしようか」
「洗面器とタオルはこちらのベッドサイドの台に置いてあります」
深呼吸を繰り返して鎮めたバルクトライはコロンと寝返りを打つ。
「ありがとう。助かるよ」
先ほどまでの痴態が無かったかのような笑みを浮かべた。
下着とシャツだけでなければもっと様になっただろう。
ただ、そんな姿でもショーティスには魅力的に見えるようだった。
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