サメちゃん大海冒険紀
異界ラマ教
母海
第1海 サメちゃん生まれる!
心地良い暖かさと程よい揺れで微睡んでいた瞳をこじ開けたのは、突然の衝撃だった。
目を開けて初めて映ったものは自分を覆っている膜のようなものとうっすらと見える数体の影。
そして再びの衝撃とぐるんと回る己の視界。
せっかく気持ちよく眠っていたというのに台無しだ。
怒りのままにぼんやりと映る影の一つに向かって飛び付いてみる。
ぼよん、と膜のようなものに跳ね返された。
その影はこちらに気が付くと、虚のような瞳とギザギザの歯をこちらに向けた。
ガブリ、と目の前の膜に歯が突き立てられた。
生温い液体が入り込み、周囲を覆っていた膜が急速にしぼんでいくのが分かる。
そして目の前にはハッキリと、恐ろしいほど鋭い牙と深い黒をした瞳が見えた。
気に入らない。
こちらを見下しているその目が気に入らなかった。
だからその目に噛み付いてやった。
こちらにもあるのだ、自慢の牙が。
一緒に生まれた頼れる相棒が。
「ぎゃあ」
黒に赤色が混じり、なんとも言えない官能的な香りが辺りに広がる。
その赤を目掛けて目にも止まらぬ速さで何体もの黒い矢が突き刺さるのを横目に見ながら、目の前に広がる大海へと繰り出した。
───とても気持ちが良い。
自分の動きに合わせて踊るように水が付いてくる。
行きたい方向に進もうとすれば周りの水たちが手を引いてくれる。
素敵だ、ここには友人がたくさんいる。
しかし、気持ちよく泳いでいるとぼよん、とそれを邪魔するものにぶつかった。
赤い、大きな壁だ。
何だというのだ、もっと自由に泳ぎたいのに。
少し考えてみる。
ふと、少し前の出来事を思い出した。
ガブリ。
壁に噛み付いてみると、口の中に美味しい味が流れ込んだ。
もう二、三度噛んでみる。
すると海が大きく揺れた。
もしかするとたくさん噛めばまた海が広がるかもしれない。
それに美味しい。
そう思って再度噛もうとした時、背中に激しい痛みが走った。
「ぎゃん!」
慌てて振り向くとそこには背ビレ、そう背ビレに食らい付いている牙が見えた。
咄嗟に身を翻すと、不快な痛みとブチブチという音が自分の身体から鳴った。
歯を食いしばって背ビレの破片を食んでいる犯人に向かって拳を叩き付ける。
「ぐえ」
バキリ、と牙の折れる音が響き、その身体が沈んでいくのが見えた。
マズい、と先ほどの経験から脳が警鐘を鳴らす。
背から流れる赤い血を漆黒の矢たちが見つける前に。
赤い壁にがむしゃらに噛み付いた。
たくさんの血が流れ出し、自分の血と混ざり合う。
すると無数の黒い矢が赤い壁に次々とぶつかってきた。
やがて赤い壁が黒で埋め尽くされる頃、海が大きく大きく振動した。
海はうねり始め、大きな渦を作り出す。
その海の全てが渦に飲まれ混ざり合っていく。
そして、その海は終わりを迎えた。
「イタぁぁい!!?」
生命たちは新たな海へと飛び出した。
サメちゃん爆誕の日である。
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