*ジア*

孤野恵 志穂

人間と人形

木の葉が枯れ出し、寒さが増してきた頃。

物静かな屋敷のカーテンをメイド服の女性人形が開けた。

暖かの陽の光が差し込み、部屋を照らした。


-『人形』


「おはよございます。ジャスパー様」


その声に、大きなベッドに寝ていたこの部屋の主人が、眠たそうに翡翠色の瞳を擦りながら起き上がる。


「おはよう。『ジア』」


と彼は、跳ねた黒髪を直しながら言った。


「今日もよろしく頼むよ」


-マスターに造られた『道具』


「はい、ジャスパー様」


-その身はマスターの物


◯-◯-◯


ジャスパーが朝食を食べている間、彼女ジアは彼のそばに控えていた。

銀糸の髪、アメシストの瞳、白磁の肌、一片の歪みもなく整った顔を持つ彼女は『人形』だ。

この世界では日常的に人形が使われて働いている


「今日は、今作っている人形の材料を買いに行こうと思う。準備をしておいてくれ」


「はい、ジャスパー様」


彼は、人形を作り生み出しそれら彼ら命令を刻む生命を与える『人形師』だ。

この屋敷に人間は彼しか居らず、代わりに何体何人もの人形が動いて働いている。

人形は基本的に、設定された行動、または、登録された主、または、創造主マスターの命令しか行えない。


「本日は、風が強く涼しいためコートを用意いたします」


「うん、よろしく頼むよ」


ただし、人形は学ぶことができる学習する

主の好きな食べ物や色、効率的な家事の仕方など、周りの人間の言動などから多くの知識を取り入れていく。


「ジアは僕ら人間の知識が増えてきたね」


彼は笑いながら言った。


しかし人形彼らは意思を持たない。

人形は、食事も睡眠も呼吸も必要ない。寒さも暑さも感じない。

そんな人形たち彼らは人間のことを理解し難いのかもしれない。


「……ジアは『付喪神』って信じるかい?」


「ジャスパー様が信じろというのならば」


彼女はいつもの平坦な声で答えた。


「……そっか」


彼の声が沈んだ。


「……これは大事にされた古いものには精霊が宿るという言い伝えなんだ。

僕が本来望んでいるものとは少し違うけどね」


「そうですか」


彼らはこの会話は何十何百回も行ってきた。


「僕は今まで何十体何十人何百体何百人もの人形たちを作ってきた。けれど感情を持ってくれた人形はまだ一体もいないんだ」


例え、今、人形彼らが答えてくれなくとも、


「どれだけ人間のような見た目でも、どれだけ人間のように行動しても、あくまで僕が創ったものか、人形彼らが学んだもので、人形彼らに心が宿ったとは言えない。

僕はいつか人形君たち感情を持ってもらうことが夢なんだ」


「その夢がいつか叶うと良いですね」


「……ジアは創り出し生まれてまだ数年しか経っていないけど、いつか感情を、心を持ってくれる。そんな予感がするんだ」


いつか、人形ジアが応えてくれると信じて。


「……少し喋りすぎたね。そろそろ動こうか。

準備は終わったかな?」


「はい。整ったようです」


彼は席を立ち、玄関へと向かった。

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