前前前世からお慕い申していたでありんす。どうかお傍においておくんなんし

神楽耶 夏輝

第1話 あちきの膝に頭を乗せておくんなんし

(カラン、コロン……下駄の音)


(川のせせらぎ)


(エコーがかかった幻想的な声)

「あらあら、こんな所でお倒れとは。お強いお侍様に一体何がありんしたか?」


 (くんくん顔を寄せて匂いを嗅ぐ)


「ふんふん、うっふふふふ。さてはお酒の魔に負けんしたなぁ。


 無理をしんせんよう。大事なお体でありんす」


(上体を起こして、頭側に座る)


「さぁさぁ、あちきの膝に頭を乗せておくんなんし。

 あちきがしばし、主様のお側におりんしょう」


(虫の声。川のせせらぎ)


「夜風が心地いい。

 静かな夜でありんすなぁ。

 まるで星が降る音まで聴こえてきそうでありんす」


「少し、お背中をおさすりしんしょう」


(背中を優しく撫でる)


「お酒は、時に心の疲れを癒すもの。けれど、過ぎれば毒になりんす。

 上手にお酒と付き合うのも武士のたしなみでありんす」


「ん? 少し歩けそうでありんすか?

 ならば、さぁさぁ、あちきの肩につかまっておくんなんし。

 家までご一緒いたしんしょう」


 (カラン、コロン……下駄の音と、引きずるような靴音)


 ◆◆◆

 

(扇子で優しく仰ぐ音)


「やっと目が覚めんしたなぁ。

 ここは、主さんのお部屋でありんす。

 今はもう、うしの刻でありんすよ。

 草木も虫たちも眠りに着いたでありんす」


 「主さんはどうやら、お酒を飲み過ぎて体調を悪うしたようでありんした」


 「そんなに驚かねえでおくんなんし」


 「あちきは沙也風ともうしんす。

 遠い時代から、時を超えて来たでありんす」


 「何故、そんな事ができたのかって?

 さぁ? それはあちきにもわかりんせん。

 ただ……

 強う強う、神様に願ったのでありんす。

 ただ、ただ、藤次郎さまのお傍に、と」


「え? 主様はお侍ではないと? 藤次郎さまではないと?」


「いいえー、そんな事はございんせん。

 ここに! 藤次郎さまのお傍に!! 神様がお導きくださったんでありんす!!!」


「主さんは、お体はこの時代の若者でありんすが、魂は幕末に活躍したお侍なのでありんす」


「それはそれはお強い剣客でありんしたよ。

 あちきはその時代の花魁でありんす」


「いいえ、間違いではありんせん」


「それならば、どしてあちきが主さまに、これほど心を惹かれるのでありんしょう?

 あちきの強い願いで、神様が引き合わせてくださったのでありんす」


「テンイ? テンセー? たいむわーぷ?

 この時代では、そんな呼び名が相応しいのでありんすか?」


「よう、わからねぇでありんすが、あちきはこうしてまた藤次郎さまのお傍に来られた事が、何よりの幸せでありんす」


「せっかくこうして再びご縁が繋がったのでありんす。

 どうかこのまま、もうしばらく、お傍においておくんなんし(肩にもたれかかる)」

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