真夏の悪夢2

 翌朝、私と花音さんはホテルのバイキングで朝食を取っていた。

「景品の当選発表者には、数日後にメールで連絡が来るんでしたっけ?」

「はい、楽しみです」

 私と花音さんが話していると、隣のテーブルの方から声が聞こえた。


「ねえ、さっきロビーの方騒がしくなかった?」

「ああ、警察が来てるみたいだよ」

「え、警察?なんで?」

「なんでも、人が亡くなったとか……」

「ええっ、そうなの!?」

「うん。制服姿じゃない刑事らしき人もいたから、もしかしたら殺人事件かもしれないね」

 その会話を聞き、私と花音さんは顔を見合わせた。


 食事を終え二人でロビーを通りかかると、確かに制服警官の姿をチラホラ見かける。何があったか気になるが、仮に殺人事件であったとしても、管轄外の事件に首を突っ込むのはよろしくない。第一、花音さんはせっかくの休みなのに、事件に巻き込むのは気が引ける。


「花音さん、部屋に戻りましょうか」

「……はい」

 二人でエレベーターホールに行こうとしたところで、声を掛けられた。

「あれ、小川?」


 振り向くと、若い男性がこちらを見ている。彼の顔には、見覚えがあった。

「……もしかして、岡崎君?」

「そうそう、岡崎朋哉。覚えてくれてたか!」

 若い男性――岡崎君は、笑顔で私達に近付いて来た。岡崎君は、警察学校で私と同期だった警官で、今はS県警で働いていると聞いていたが……。


「久しぶり、岡崎君。……ねえ、もしかして、事件?」

「うん、大きな声では言えないけど、殺人事件みたいだ。……そっちの女の子は?」

「ああ、この子は木下花音さん。実はこの子……」

「木下花音!?」

 岡崎君が、驚いたように声を出した。

「木下花音って、あの木下花音!?最年少で捜査協力者に選ばれた?」

「あれ……もしかして、花音さんって有名?」

「ああ、一部の警官の間ではな。S県警でも話題になった事がある。……まさかここで会えるとはな」


 岡崎君がチラリと花音さんを見る。花音さんは、無表情のまま私の隣に立ち、挨拶する。

「……木下花音です。よろしくお願いします……」

「S県警の捜査一課所属、岡崎朋哉です。よろしく!」

 岡崎君は、笑顔で花音さんと握手した。制服警官と違い灰色のスーツを着ているから、もしやと思ったが、やはり彼は刑事になっていたか。


「あ、良い事考えた」

 花音さんの手を離すと、岡崎君はパッと閃いた表情で言った。

「小川、木下さん、捜査に協力してくれないか。俺の上司には許可を取っておくから」

「えっ、S県警の人間でもないのに捜査に加わって良いの?」

「いいんだよ。お前は捜査一課の刑事なんだし。それに、これでも俺、捜査の陣頭指揮を執ってるんだぜ」


 私は、チラリと花音さんを見た。花音さんは私の視線に気付くと、小さな声で言った。

「……実は、私も事件について気になっていたんです。私で良ければ、捜査に参加させて下さい……」

「決まりだな」

 岡崎君は、そう言って笑った。私と花音さんが東京に帰るのは明日の予定。それまでに解決の目途はつくのだろうか。幸いまだ休日が続くし、滞在日数を延ばした方が良いかもしれない。

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