日常

T村

第1話

 なぁ、いつ本気出すんだよ。今日も自分自身に問いかける。これまで幾らでも女を抱く機会は用意されていたが一度として抱いたこと、いや抱けたことは無かった。容姿こそそれなりに整っており、身体能力もそこそこある。

「いつまで童貞やってんだよお前」

 心無い友人の声が今日はひたすらに耳障りだった。いつもはさほど気にならなかったが、今日だけは何か意味合いが違う言葉のように聞こえていた。

「俺が好きなのは女体であって、女ではない」

 友人に強がってそう答えてみる。平静を保とうと必死であり、即座に自己嫌悪に陥る。それっぽい言い訳ばかりが上手くなる度に年を取っていることを実感する。

「なんだよそれ、女抱けないやつの醜い虚勢じゃんか」

 普段こういう会話をしていない時は、この友人のことをこれほどまでに煩わしく思うことは無い。

「タバコ」

 そう言って、逃げるように喫煙所へ急ぐ。喫煙所に向かう途中にまた自己嫌悪に陥る。どこまでも人としてダサく、自分が嫌いでしょうがなかった。喫煙所に着くと、大好きなセブンスターにサッと火をつける。


「もっとふざけないでちゃんと女の子の話聞いて、あと酒飲みすぎ」


 もう顔もはっきりと思い出すことが出来ない女に言われた一言を、セブンスターを吸いながら思い返していた。刹那、急に大好きなセブンスターが不味く唯の灰の塊に感じられた。セブンスターに罪は無いのに、吸い殻入れに思いきり吸いかけのセブンスターを投げつけて喫煙所を後にした。

 「女って生き物は嫌いだ」

 全く興味のない話でもそれなりに愛想よく応対をしないと勝手に機嫌を損ねだすし、たいして面白くない話を聞くことに耐えられなくなり、冗談を言って茶化してみるとそれはそれで空気読めよなんて言われたりする。踏んだり蹴ったりだ。

 「女なんて嫌いだ」

 いつも自分にそう言い聞かせるも、5分10分後には昨日とは違う雌を性的な目で見つめ、如何わしい事を妄想する。自分のこの傲慢さに嫌気が差すも、どこか満足している畜生な自分がいる。唯、己が必要な時に満たしてくれさえする穴があればいい。そう心の中で思い今日も街へ出る。








 あの人綺麗だな、思い切り犯してやりたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日常 T村 @poison116

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ