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「おはよう。サキ。今日は……って、もう桜も散っちゃったし、お花見って感じはしないね」
言いながら辺りを見回してみるけど、もう桃色の花は一つも枝に残っていなくて、目に映るのは青々とした木々と、足元に散らばる、踏まれてぐちゃぐちゃに汚れた、桜だったものの花弁だけ。気温だって今は早朝で涼しいけれど、お昼には汗ばむくらいになるらしい。
もう花見のシーズンも過ぎきったからか、それとも今が朝の五時という時間だからか、わたし以外に人は見当たらない。
こんな朝早くに家を出た理由は、最後くらいは誰にも邪魔されず、サキと話がしたかったからだ。
ここ数日、座っていた木に近づく。今日はレジャーシートを広げない。木の幹に手を当ててみる。ゴツゴツとした表面はひんやりとして冷たかった。
一度、大きく息を吸って、肺に空気を送る。重く、それでいて早い鼓動を落ち着ける。
そうして、わたしは誰に向けてでもなく語りかける。
「今日までずっとお花見に来たよ。毎日。サキがどうしてお花見が好きで、何を楽しんでたのか、何を考えてたのか知りたくて。そうすれば、サキがどうして死んじゃったのか分かると思ったから。でもね……」
喉に力を込めて、ゴクリと唾を飲み込む。
「何も分からなかった。手帳に書いてくれたこと以上のことは全然分からなかったよ」
毎日、ずっとサキが何を考えていたのかだけを考え続けた。お花見なんて言ってみたけど、花なんて全く興味がないし、桜の散る景色が綺麗なのは理解できるけど、綺麗なだけで心を打たれたなんて感覚を覚えたことは一度も無い。
桃色の花が咲いて、散って、緑の葉が芽吹く。それだけ。毎年同じ。それの繰り返し。そこに感動なんてしない。
ただサキの思いが知りたくて、サキの真似をしていただけだ。
でも、何も分からなかった。
サキの思いを知ろうとすればするほど、余計にサキという人間が分からなくなった。もしかしたら、なんてきっかけを掴めたと思っても、それすらわたしの中のサキのイメージに当てはめているだけなのかもしれないと疑ってしまう。
「わたし、バカだから、サキほど頭が良くないから分からないんだよ。もっと詳しく書いておいてよ。ちゃんと言ってよ。じゃないと、何も、分からないんだよ」
毎日の花見でわたしには到底、サキの思いなんて理解できっこないってことには気がついた。気づいてしまった。
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