きみがわるい、どこへでもいくな

永原はる

あなた

2023年11月18日

   ▶


「海は生命の源って言うけどさ、こうやって打ち上げられた貝殻とか干上がった海草を見ていると逆に、生命の果て、って感じがするんだよね」


 波音を背景に、あなたの声が鳴る。千葉県は九十九里浜の海岸に、あなたの後ろ姿がよく映える。ゆるくウェーブのかかったロングへアは、中学生の頃からお決まりのヘアスタイルで、あなたが意固地な性格であることの象徴だった。しかし、あなたにしては珍しく、ベージュのキャップなんて被っている。大学生を目前にしてようやくオシャレを意識し始めたのか、はたまた、同行者が磯千鳥凪咲いそちどりなぎさだからか。


 磯千鳥凪咲は、あなたのセリフに豪快な笑い声を返した。


「それ、陸上生物の角度すぎるし、順路の問題でしょ」


 砂浜に刻まれたあなたの足跡を、磯千鳥凪咲の視線がなぞる。あなたは陸上生物の生活圏から、海洋生物のテリトリーへと近づいていく。とはいえ、水泳の授業が苦手だったあなたが海へ飛び込む度胸などなく、そもそもおろしたてのスニーカーを濡らすつもりもない。磯千鳥凪咲もそれが分かっているから制止しない。十歳近くも年下のあなたの、まるで少女のような無邪気さを眺めるだけに留まっている。


 磯千鳥凪咲は二十七歳だった。あなたは十八歳だった。


 二人は年の離れた姉妹のようで、あるいは保護者と子供のようで、まさか恋人同士には見えない。ホテルに戻ったあとで、ベッドの上、素肌と素肌を重ねる関係性だとは、とうてい思えない。

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