第26話 チャンバラ対決
『チャンバラ対決』のゲーム形式は何でもありの1体多数の乱戦で、ウレタンの刀を用いて自分以外の参加者についた紙風船を割れば良いらしい。肝心の紙風船は全部で両腕両足に頭のてっぺんの5つ。割った数が多いものから順に豪華景品が与えられるそう。まだ勝負は2回残ってるからな。負けてばっかってのは流石に気に食わないけど、チャンバラならまだ勝ち目はある。
「輪投げの次はこれでどうだ?」
「お、良いな!」
「良いぜ乗った!」
「チャンバラ何気に初めてなんですよね~。楽しみです!」
境内に仰々しく設置された俺とちゅうじん、王子にジュリアの4人がそれぞれ腕や膝、頭に紙風船を装着し終え、土俵となる円形のマットに上がる。
「今回も1位は俺がいただく!」
王子がニヤリと誇らしげに刀を上へ突き上げた。あの野郎、完全に調子に乗ってやがるな……。ムカつくからここらでいっちょその天狗になった鼻をへし折ってやろう。手に持ったウレタン状の刀を握る。普段使ってるのよりだいぶ軽いけど、これぐらいならいけそうだな。
「そう簡単には負けませんよ!」
「そうだそうだ! 偵察隊長を舐めるなよ!」
ジュリアとちゅうじんもやる気ばっちりのようだ。みんなのスイッチが入ったところでゲームスタートの笛が鳴った。すると、俺とちゅうじん、ジュリアは一斉に王子の元へ走り出す。
「まずはお前からだ!」
「これ以上ポイントを取られるわけにはいきませんからね!」
「覚悟だぞ!」
どうやら2人とも考えていることは同じのようで、持っていた刀で風船を叩き割ろうと俺たちは飛び掛かった。
「え、ちょっ! 嘘だろ!? 3人がかりは反則……!」
王子が咄嗟に避けようとするも、時すでに遅し。まんまと俺たち3人に風船を割られ、ゲームオーバー。ここで王子は退場となった。
「ハッ、ざまぁみろってんだ」
「これで邪魔者は消えましたね」
「おう! ここからが本番だぞ」
土俵に残ったのは俺とちゅうじん、そしてジュリアだ。再び仕切り直して、ゲーム開始。初めに動いたのはちゅうじん。俺に向かって走って来た。俺が避けようと後退すれば、今度は後ろから頭の風船目掛けてジュリアが刀を振った。俺はギリギリのところでしゃがんで避けるも、頭の風船が風圧で割れ、前にいたちゅうじんが刀を横に振り、膝2つの風船も割られてしまった。残る風船は2つ。流石に敵が周囲に2人もいる状況はキツイ。ひとまず距離を取るか。
俺はしゃがんだ状態のまま、ちゅうじんとジュリアの足を引っ掛けて転ばせ、ついでにそれぞれ頭の上と膝2つの風船を割ってからその場から離れる。
「やってくれましたね……」
「転ばせるのは卑怯だぞ!」
立ち上がったジュリアとちゅうじんが睨んでくる。俺は刀を構え直しつつ、口を開ける。
「この試合は何でもありだろ? なら、足を引っ掛けるぐらいどうってことはないはずだ。そうでしょう?」
審判の方を向けば、OKと腕で大きく丸が描かれた。俺が顔を正面に戻すと、いつの間に迫っていたのか刀を振り下ろす2人の姿があった。俺は2人の刃を刀で受け止め、弾き返すと同時に回し蹴りを繰り出す。咄嗟に2人が避ける隙にジュリアの方へ踏み込み、容赦なく腕についた風船2つを割った。風船を割られたジュリアは眉を下げながら、俺の方を向く。
「いや~、参りましたよ。そういえば、何でもありって1番タロさんが得意な戦法でしたよね」
「まぁな。ほら、敗者はとっとと土俵から出ろ~」
「はーい。それではうーさん、後はお願いしますね!」
「任せろ!」
ジュリアがちゅうじんへ後を託して退場していく。ちゅうじんは自信満々な表情でジュリアに向かってそう言うと、こっちへ向き直った。
おいおい、いつの間に結託してたんだよこの2人。そう顔を引き攣らせていたら、ちゅうじんが話しかけてきた。
「なぁ、多田。この際、1撃で決めるのはどうだ?」
「あんまり長いことやってもあれだしな。受けて立とう」
両者残った風船は両腕の2つ。俺とちゅうじんが刀を構え直したところで、再度笛が鳴った。と同時に俺たちはその場から踏み込み、一気に距離を縮める。互いに渾身の一撃を繰り出し、そのまま横を通り抜ける。瞬間、風船の割れる音が響いた。
「これは……」
「引き分けだな」
辺りが静寂に包まれる中、一騎打ちを見ていたジュリアと王子の声が聞こえてきた。
振り返って見てみたら王子の言う通り、俺の風船だけでなくちゅうじんの風船も割れている。
と、ちゅうじんが首を傾げながら言葉を発する。
「ってことはこれ、どうなるんだ?」
「あー、引き分けだから互いに同率1位で3ポイントずつで良いんじゃないか?」
「そうだな」
というわけで、このチャンバラ対決は俺とちゅうじんが1位で、ジュリアが2位、最初に敗退した王子が3位という結果に終わった。
続くヨーヨー釣りでは、ジュリアが無双して20個のヨーヨーをかっさらっていき、1位に。ちゅうじんも初めてながらにかなりいい結果を残して14個で2位。俺と王子はスタートが遅れて10個と9個。俺が3位で王子が最下位になった。このヨーヨーの水には神社の御神水が入っているらしく、ゲットした分は好きなだけ持って帰れるのだそう。
ジュリアとちゅうじんは、御神水をタダで貰えると知り、ゲットした分のヨーヨーが入った袋を受け取る。
こんだけ貰って一体、何するつもりなんだよ……。
仲良く談笑しながら俺の前を歩く2人に半分呆れていると、横を歩いていた王子がこっちを向いた。
「で、四番勝負の結果はどうなったんだ?」
「それなら、全員7ポイントで引き分けだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ」
俺は空いたスペースへ移動し、地面に四番勝負の内訳を表の形で書いていく。その様子をちゅうじんたちが周りから眺める。
射 輪 チ ヨ
多田:1+2+3+1=7
ちゅ:2+0+3+2=7
王子:3+3+1+0=7
ジュ:0+1+2+3=7
「ほらな?」
「あ、ホントですね」
「なら、ご褒美の方はどうするんだ?」
前を歩いていたちゅうじんが振り向いた。確かに引き分けの場合のことについては考えてなかった。どうするのが正解だろうと皆が頭を捻る中、王子が口を開く。
「んー、全員同じポイントなんだから、どこかの屋台で全員同じものを買ったらどうだ? それなら公平性も保たれるし、みんなが1人分の何かを奢ることになる」
「でしたら、あそこの焼きそばなんてどうです?」
ジュリアは斜め前の焼きそばの屋台を指さした。さっきからやけにソースの匂いがすると思ったらそういうことか。
「動き回ってちょうど腹減ったからな。良いんじゃないか?」
ちゅうじんが屋台へ視線をやりながら俺たちにそう投げかける。それに対して俺と王子は首を縦に振って頷いた。
屋台で焼きそばを購入した俺たちはその辺の空いたスペースで食べることに。途中、ゲットした景品を開封したり、みんなの夏祭りの思い出を話しながら完食し終えると、全員分の空になった容器を捨てにゴミ捨て場へ向かう。
と、日が落ちたのかそこら中に吊るされていた提灯の灯りが灯される。スマホで時間を確認してみたら、時刻は19時を迎えていた。何やかんやでもう2時間も滞在していたらしい。時経つの早いな……。
ゴミ捨て場へ到着し、空になった容器を捨てる。全員が捨て終わったところで、ジュリアが俺たちの方を向いた。
「後、30分ほどで花火なんでそろそろ上がります?」
「そうだな。ついでに参拝して夜宵と朝姫さんに顔見せに行っとくか」
朝姫さんはともかく、夜宵が真面目に働いてるところなんで滅多に見られないからな。ちょうどいい機会だし拝んでおくのもありだろう。
俺たちは境内に続く階段を上って、拝殿でお参りを済ませると2人がいるであろう社務所の方へ足を運ぶのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます