第23話 携帯しているものは皆、個性的

 どちらにせよ、不味いことになったのには変わりない。子供を人質に取られてしまった以上、下手に動いたら、子供の命も一般人の命も俺たちの命(首)もお終いだからな……。

 と、様子を見ていた猪口が顔を上げて俺たちの方を向いた。

 

「で、どうする? この状況」

「そんなん助けるしかないやろ」

「紗奈の言う通りだぞ」

 

 間髪入れずに答える織部とちゅうじん。

 

 けど、一口に助けるって言ったってどうしたもんか……。

 

 そう考えている間に猪口が下にいる警備員たちへ時間を稼ぐよう念話で指示を送る。

 

 作戦を立てようにも手ぶらじゃ無理だからな……。そこまで考えてから、俺はみんなの方を向く。

 

「よし、取り敢えず持ってるもん全部出せ」

 

 ということで、各自持っているもので、尚且つ使えそうなものを出していく。

 俺は太刀とそれの付属品に、分銅の着いた紐に極小ナイフ、そして捕縛縄。猪口は日本刀と捕縛縄。

 織部は拳銃にライフル、催涙弾にゴム弾、空薬莢、捕縛縄。ちゅうじんは光線銃にライトセーバー、麻痺薬の入った袋、手榴弾、捕縛縄だ。

 置かれたそれを一通り見た俺と猪口は揃って口を開く。

 

「「なんつーもん持ち歩いてんだお前ら」」

「いつこういう状況に陥るか分からんからな。あたしの基本装備や」

「そうだぞ。備えあれば患いなしだ。てか、それを言うなら多田も大概だろ」

「別に俺はお前らほどおかしなもんは持ち歩いてない」

 

 ちゅうじんにそう返され、真っ先に否定する。別にこの紐と極小ナイフは元から鞘に装備されてあったものだ。断じて俺は悪くない。寧ろ被害者だ。てか、何だよちゅうじんの武器。半分以上スター〇ォーズじゃねぇか。

 と、武器がスター〇ォーズなちゅうじんがこっちを見てきた。

 

「で、どうするんだよ?」

「んー、そうだな。何か思いつくか?」

「いいや……。持ってるものの個性が強いってことぐらいしか分からん」


 試しに猪口へ訊いてみるも、困ったような表情を浮かべるばかり。こんな野蛮で変な物を持ち歩いている奴が傍に居ただなんて知ったら、そりゃそんな反応にもなるだろう。実際、俺もそうだ。けど、これらを用いて制圧するのか……。

 時間を稼いでくれている警備員たちもそろそろ限界。犯人を捕える方法は幾らでもあるにはあるが、犯人を捕らえた後、子供にトラウマが残らないかが心配なんだよな……。

 そう何かないかと思いながら、ちゅうじんを見ていると、あることを思い出した。

 視線を感じたのかちゅうじんが訝しげにこっちを向いた。

 

「どうした?」

「これならいけるかもしれん」

「なんか思いついたん?」

「まぁな。全員耳貸せ」

 

 そう促すなり、みんなぎゅっと固まって聞く体勢に入った。


 

 ◇◆◇◆


『もう少しだけ犯人の注意をそっちに逸らしてくれ』

『了解です』

 

 猪口が指示を出し終え、俺とちゅうじんは顔を見合わせる。

 

「よし、そんじゃやりますか」

『良いぞ織部ー』

『あいよ~』

 

 猪口が念話を飛ばすと、向かい側のビルに移り、遮音性つきのライフルを構えた織部が緩く返事をした。その直後、鬼面をつけた犯人に向けて催涙弾を発射。

 

「じゃあ合流地点で」

「あぁ」

 

 催涙弾が命中に犯人の視界を奪ったところで、猪口が飛び降りる。瞬間、第2射のゴム弾が発射され、犯人の手首に直撃。握られていた長刀が吹き飛び、その先に猪口いたキャッチ。と同時に俺とちゅうじんが降下。先に着地したちゅうじんが織部から借りた拳銃でゴム弾を発射。子供を抱えていた手首に命中し、反動で子供が腕から離れて地面に落ちる。と、ちゅうじんが駆け出して子供を連れ出した。その隙に俺は背後から回り込んで犯人の首に手刀を落とす。意識を失った犯人を抱え、捕縛縄で拘束。鬼面からはやはり葵祭の時と同様、紫の靄が纏わりついており、犯人事態から祟魔の気配は感じられない。

 ふと顔を上げれば、目の前の煙が晴れ、視界がクリアになる。と、突如現れた俺に向かって何故か刀や銃が突きつけられた。


「あー、犯人を捕縛。子供も救出したんで大丈夫です」

 

 慌てて観文省の手帳を見せれば一斉に武器が降ろされ、俺は事態を聞きつけてやってきた取締部の人に犯人を引き渡す。そのままちゅうじんの方に行けば、子供は何事もなかったかのように、祇園祭宙に逸れていたのだろう母親と再会。無事に終わったようだ。


「お疲れ。記憶の方は?」

「頭を撫でるついでに消しておいた。これでトラウマになることはないぞ」

「そうか。なら良かった」


 変にトラウマにでもなられたら後が大変だからな。嫌な記憶は無い方が良い。幸いにも、ちゅうじんが記憶が消去可能な能力持ちで良かった。

 一仕事終えて息を吐いていると、後ろから自分を呼ぶ声がしたので、振り返る。と、長刀を手に持った猪口が近づいてきた。

 

「おーい、これどうすりゃ良い?」

「あー、そうだな。一旦、この件が片付くまでは日輪の方で預かっといてくれ。持ち主にはこっちから連絡しておく」

「了解だ」


 猪口は頷き、そのまま長刀を持って行ってしまった。大方、狙撃ポイントのビルから降りてくるであろう織部と合流するのだろう。さて、この件どう両親に伝えるべきか……。後先考えない無計画な親の事だからまさか盗まれていたとは思っていないだろうし、言ったら言ったでまた騒ぎ立てるだろうから面倒臭いんだよな……。

 渋々、長刀の件を両親へ伝えるために念話を飛ばそうとすると、前の方から声が掛かった。今度は何だと思いながらそっちの方を見ると、何故かスーツ姿に日本刀を腰に差した海希がいた。

 

「おっ、なんやおったんか」

「それはこっちのセリフだ。なんでいるんだよ海希。お前、別件で外れてるんじゃなかったのか?」

「ん? あぁ、その別件言うんが天皇陛下の護衛でな。何でもお祭り好きらしいから、祇園祭を生で見に来たかったんやって。ほんま困ったもんやで……」

 

 海希が少し肩を逸らして後ろの方を振り向けば、天皇陛下とその護衛の人たちがこっちに向かって歩いてきた。何でこんな街中を平然と歩いてらっしゃるんだよ。普通、ダメでしょうが……。せめて車に乗ってくれ。いつ狙われるか分かったもんじゃないってのに。半分呆れたような目の海希に同情していたら、横に居たちゅうじんが不意に手を振り始めた。


「天ちゃん! 久しぶりだな!」

「おや、これはちゅうじんさんではありませんか」

 

 厳つい黒服の人たちに囲まれている天皇陛下は、ちゅうじんを見ると微笑を浮かべた。

 

「おい、誰が天ちゃんだゴラァ。天皇陛下に謝れ」

 

 すかさずちゅうじんの頭を叩いて、ちゅうじん共々一緒に頭を下げる。全く何考えてんだこいつは。天皇陛下を天ちゃん呼びとか普通に考えておかしいからな。

 すいませんと必死に謝罪を述べながら頭を何度も下げていたら、天皇陛下から頭を上げるように言われる。

 

「いえ、良いんですよ。ちゅうじんさんとはそれなりの付き合いですから」

 

 優しい笑みを浮かべながら、ちゅうじんの方を見る天皇陛下。その目つきは仏そのものだ。

 

「何⁉ おい、俺の与り知らんところで何やってんだ」


 俺は咄嗟にガバッと横を向いて、ちゅうじんへ詰め寄る。

 

「え? あー、いや、葵祭の後、天ちゃんがお礼のついでにお喋りしたいっていうからな。度々お邪魔させてもらってるんだぞ。ほら、連絡先も」


 そう笑顔で自らのスマホの電話帳を見せてくる。そこにはきちんと『天ちゃん』と表記されていた。

 おいおい、噓だろ……。何、ちゃっかり連絡先まで交換してるんだこいつ……。

 ちゅうじんの驚くべき言動に絶句していたら、ふと隣で一連の流れを見ていた海希が小声で耳打ちしてきた。

 

「それはそうと、何かあったん?」

「あー、うちの長刀が盗まれてな。ちょうど今、ちゅうじんたちと協力して取り換えしたところだ」


 織部と話をしている猪口の方に視線をやると、海希は納得した表情を見せた。その間にも、天皇陛下御一行は先へ進んでいく。「護衛に戻らなくて良いのか」と海希へ尋ねるが、「あれだけおったら1人ぐらい抜けても気づかへんやろ」と返された。


「で、他には?」

「……葵祭の時と同様、鬼面をつけたやつが犯人でな」

「そうなのか?」

 

 先ほどまで天皇陛下に手を振って別れの挨拶をしていたちゅうじんが話に入ってきた。ちゅうじんの問いに頷き、俺は話を続ける。

 

「至近距離で視たけど、今回も犯行に及んだのはただの人間。鬼面の方には案の定、例の祟痕が纏わりついてたよ」

「こりゃ厄介なことになったな……。この分やとうちの方も一枚嚙ませてもらうことになるやろうし。あー、仕事が増える……。絶対黒幕に会うたら祟核が浄化される寸前まで祓ろてやんねん」

 

 海希は人1人呪い殺せそうなぐらいのしかめっ面で話す。

 

「それ祟魔にとったら1番嫌なやつじゃねぇか」

 

 苦笑交じりに呟くと、海希はそろそろ戻ると言い出して俺たちの元を離れていった。こっちも後処理やら警備の続きやらが残っているし、何よりちゅうじんが買った大量の土産袋がまだ大丸へ置き去りにされたままだ。流石にそれは不味いので、俺たちもこの場を離れることになった。




☆あとがき

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