第19話 強敵には奇策で挑め

「この場にいるお前らだけでも始末してやる……!」

 

 手に4尺はあろう金棒を出現させた赤い目の鬼――赤鬼は、1番近くにいた俺へ襲い掛かってきた。


「っ……!」

 

 俺は刀を抜き祓力を纏わせ、上から振り下ろされた金棒を受け止める。何キロあるんだというぐらいの重量が圧し掛かってくるが、何とか弾き返して距離を取る。と、会議室にあった椅子や机が霊圧によって浮き、こっちに向かって飛んできた。全員避けるなり、叩き斬るなりして各々応戦。俺も高価な社長椅子を無遠慮に両断。鬼に向かって駆け出したその背後から王子が数本の苦無を投げつける。だが、金棒であっさり振り払われて、無意味に終わってしまった。

 

「へぇ、鬼風情が結構やるじゃねぇか」

 

 後ろの方で王子のイラついたような声が聞こえる中、振ってきた鬼の金棒を避け、即座に横から斬りかかる。その瞬間、後ろの窓が割れると同時に3本の刺股が降ってきた。咄嗟に振り向くと、すかさず、斜め後ろにいたちゅうじんが光線銃で撃ち落とす。後ろにいたちゅうじんと海希はそのまま侵入してきた人型の青い目をした鬼――青鬼と交戦する。再度前を向くと、赤鬼がニヤリと笑った。


「よそ見はいけないなァ!」

「しまっ……!」

 

 突如襲来してきた敵に気を取られていたせいで、金棒の打撃を脇腹に喰らい、壁に吹き飛ばされる。


「いってぇ……」

 

 何とか受け身を取って祓力で致命傷は防ぐが、じんじんとした痛みが響く。

 流石、10年間人間に擬態しながらここに潜り込んだだけはあるな。こりゃ正攻法じゃ無理か……。


 俺がダウンしてる間にも王子が赤鬼と対峙。海希が祓力を纏わせたテーブルを盾にして、刺股から身を守る一方で、ちゅうじんは光線銃と体術を駆使して青鬼とほぼ互角に渡り合っている。

 

 さて、これが終わったら、医務室に直行するか。


 俺は立ち上がって刀を払い、交戦中のちゅうじんと王子に合流。念話で指示を出しながら再度、金棒を持った鬼と交戦する。戦闘開始から3分が経過。徐々に俺たちは赤鬼と青鬼の距離を近づかせるように誘導。50センチ付近まで近づいたところで、王子が2体の鬼に向かって煙弾を投げると、黒煙が発生。俺と海希は一斉にちゅうじんの方を向く。


「今だ!」「今や!」

「おう!」


 ちゅうじんは黒煙の中から現れたかと思えば、赤鬼と青鬼に触れた。2体の鬼は突然のことにギョッと目を見開く。と、赤鬼と青鬼が宙に浮いた。


「な、何だ⁉」

「う、浮いてる……だと⁉」

 

 摩訶不思議な状況に2体の鬼は必死に宙で藻掻く。

 

「驚くのはまだ早いぞっ!」


 ちゅうじんが手を前にやったかと思うと、追い打ちをかけるように2体の鬼はとてつもない勢いで壁に叩きつけられた。2体の動きが止まったところで、この機を逃すまいと、すかさず俺とちゅうじんが赤鬼へ、海希と王子が青鬼へ、それぞれ手に持っていた武器を鬼の首へと突きつけた。

 

「これで終いや。……入って来てええでー」

 

 海希がそう言い放つと、会議室の扉が開き、そこから日輪部隊が入ってくる。完全に囲われ、逃げ場のない赤鬼と青鬼は戦意喪失。そのまま日輪部隊に連れていかれた。

 その代わりに、夜宵とジュリアが破壊された窓から中へ入ってきた。ここ9階だってのによくそんなところから来るよな……。と、夜宵が祓式の大鎌を消してこっちにやってきた。

 

「そっちは無事に片付いたか」

「あぁ。外の方はどうだった?」

「それでしたら、建物の裏に潜伏していた鬼を十数体程とっちめて、日輪の方たちに引き渡してきましたよ」


 

 夜宵に続いて歩いてきたジュリアが報告する。ってことは、赤鬼と青鬼以外にも居たってわけか……。

 

 役目を無事に終えた俺たちはセキュリティルームにいるであろう室長と合流するため、一旦外に出る。すると、見覚えのある顔がまた1人いた。だが、声を掛ける前に、夜宵が頬を引き攣らせて反応する。

 

「げっ……姉貴……」

「あら、夜宵じゃないのよ~! 元気にしてた? 長らく会ってなかったからお姉ちゃん心配してたのよ~」

「うぜぇ……。おい、引っ付くな!」


 夜宵に引っ付いている女性は伏瀬朝姫ふせあさひ。夜宵の姉で見ての通りのシスコン。日輪に所属している海希の先輩でもある。と、妹に夢中で俺が居るのに気づかなかったのか、こっちを向いて軽く手を振って来た。


「やっほー。久しぶりね多田くん」

「どうも、お久しぶりです」

 

 軽く頭を下げて挨拶する。朝姫さんとはかれこれ2年は会ってなかったもんな……。最後に会ったのは確か短大1回生の時だっけ。

 記憶を辿っていたら、朝姫さんは夜宵にぐいっと近づいてこう言った。

 

「で、噂のうーさんは何処なの? 夜宵」

「そこだよ」

「う・ちゅうじんだ。よろしくな」

「へぇ、可愛いじゃない。良かったら少しお話ししない?」

「勿論だぞ!」

 

 すっかり日輪内部にまで行き渡ってるようで……。毎度毎度よく懲りずに、初対面の人との話に付き合うよなちゅうじんは。


 10分ほどちゅうじんと話し込む。その間、暇なので海希と適当に話をしていたら、朝姫さんがこっちにやってきた。


「海希くんがお世話になったようで。苦労かけなかった?」

「あー、実は……」

 

 俺が会議室でのことを話そうとしたら、焦ったように海希が顔を近づけて詰め寄ってきた。

 

「別に苦労なんかなーんも掛けてへんよな? なー?」

「お、おい……」

 

 圧をかけられついでに、海希からこっちに来いと腕を引っ張られる。

 何だ、藪から棒に……。

 半ば呆れながら海希についていけば、小声で話してきた。

 

「朝姫さんが怒ったら怖いん知っとるやろ?」

「勿論知ってるよ。だから怒られて来いと思ってだな……。イテテテ」

 

 不意に海希の腕が脇腹に当たって、じりじりとした痛みが生じて、手で押さえる。と、海希が手で押さえている部分に視線を落とす。

 

「ん? よう見たら怪我しとるやん」

「あぁ、そうだよ。だからこっちは早く医務室に行きたいんだっての」

「そう言うことははよ言えや……。ほら、行くで~」

「へいへい」

 

 俺は海希に腕を引っ張られ、そのまま医務室への道を歩く。

 って、おい。さらっと朝姫さんから逃げやがったなこいつ……。こうなったら後でこっそり密告しておいてやろう。

 そう密かに意志を固めるのだった。




☆あとがき

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