第8話 その場のノリでもやって良いことと悪いことがある

 大家さんが自分と同じ観文省に勤めていると知って驚いていると、隣に座っていたちゅうじんが見てきた。


「どうした多田?」

「い、いや。まさか大家さんが観文省勤めだとは知らなくてだな……」

「そうなのか?」

「あぁ」

 

 謎が多い人だとは思っていたけど、まさか俺の身近なところに勤めていたとは、驚きだ。

 

「ちなみにどこの部署にお勤めで?」

「外事課だよ」

 

 外事課と言えば、俺の親父と上司がそこに勤めてたな。あそこは何かと奇抜な人が多いから納得っちゃ納得か。他部署でも個性が強いだなんだって観文省の中でも魔境扱いだからな……。てか、事あるごとにどこかの国の土産を贈り付けてくるのは、そう言うことだったのかよ。


 その後も、大家さんへいくつか質問がされていき、恵美さんは軽く頭を下げる。


「ありがとうございました。それじゃあ次はうーさんですね」

「お、おう」


 え、まさかコイツめちゃくちゃ緊張してる? さっきまで緊張してる素振りなんて一切なかったのにな……。


 ちゅうじんの意外な一面に驚いていると、さっそく恵美さんが質問をし始める。


 「それではお聞きします。うーさんは宇宙人ということですが、あなたから見て地球はどうでしょう?」

「んー……まず、ご飯が美味いな。それに娯楽もたくさんあって面白い。ボクが住んでるところにはそう言った娯楽がないから、尚更そう思うぞ」


 恵美さんはちゅうじんの話を聞きながら、熱心にメモを取る。娯楽が無いのか……。少なくとも今の時代じゃ考えられないな。つくづく地球に、日本に生まれて良かったと思ってしまう。と、恵美さんが次の質問を切り出した。

 

「娯楽が無いという事でしたが、ここに来る前は普段どんなことをしていらしたんです?」

「普段は第6偵察隊の隊長として、星々の偵察をしてるぞ。ルプネスの勢力拡大のためにな。一応、この星がどんなところか情報収集はしてる」

 

 ちゅうじんの発言に一瞬、この場の空気が冷える。つまり、地球侵略的なことが行われる可能性も無きにしも非ずってことか。

 

「な、なるほど……。うーさんの故郷はどんなところか訊いても?」

「そうだな。技術的にはここよりも進んでるぞ。普通に空飛ぶ機体――そっちで言うUFOだったか? それも作ってるし、こんなのもあったりする」

 

 ちゅうじんはそう言いながら、パーカーの懐から光線銃を取りだした。一同、身を乗り出して光線銃に釘付けになる。すると、恵美さんが反応した。

 

「えっ! これってまさか――」

「光線銃だ」

「ねねね、試しにこの板ぶち抜いてみてよ」

 

 不意に大家さんに両手で肩を掴まれた。俺は咄嗟に大家さんの方を睨みつける。

 

「おう!」

「誰が板だこの野郎! って、ちゅうじんもノリ気になるんじゃね――」

 

 ちゅうじんは引き金に指を掛け、光線銃をこっちに向かって放ってくる。俺は咄嗟に席から飛び退いてギリギリのところで避ける。

 

「おぉ……本当に光線銃ですね……」

「はぇ~、凄いね」

「いや、怖すぎるわ!」

 

 甘野さんと大家さんが感心したような口振りでそう話す。その反面、俺は恐怖のあまり身を縮こませる。と、恵美さんが話を戻そうと口を開き、インタビューの続きが行われる。

 

 10分ほどしたところで、ちゅうじんへの質問が終わった。

 

 大家め……危なっかしい真似しやがって……。もし当たってたらどうしてくれんだよ。

 

 ちゅうじんに話を聞いている大家の方を睨みながら、ため息をつく。と、今度は甘野さんの番のようで、恵美さんはメモ帳のページを変えてペンを持ち直した。


「それでは甘野さんよろしくお願いします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 甘野さんが軽く頭を下げると、彼女に対して質問が行われていく。まず、基本的なことから質問されていき、いくつか質疑応答が終わったら、込み入ったことについて訊かれていった。

 

「何故料理の専門学校に行こうと思われたんですか?」

「それは、私が食べることと料理が好きだってこともあるんですけど、実家が京都市内でも有名な老舗旅館でして。そこの板前になりたいからというのもありますね」

「なるほど」


 老舗旅館・甘野は500年続く老舗だったっけ。旅館の娘さんだから料理が上手いのも当然か。勿論、本人の努力ってのもあるだろうけど。何はともあれ、どっかの宇宙人とは段違いだな。あれは食えん。という食ったら死ぬ。それに反してあの老舗旅館の料理は美味いって評判だし、いつか行ってみたいな。

 

 その後もどんどん話は進んでいき、甘野さんへのインタビューが終了。全員分の話を聞き終えた恵美さんはメモ帳をパラパラと捲ると、顔を上げる。その表情はとても満足そうなものだった。


「皆さんお忙しい中、本当にありがとうございました」

「お役に立てたようで何よりだぞ」

「みんなの意外な一面も知ることができたし、是非とも定期的にやりたいねぇ」

「でしたら、今度はお菓子でも食べながら話しませんか?」

「それ良いな!」

 

 甘野さんの提案にちゅうじんが賛同する。

 

 もう次の座談会の話かよ……。でも、変に畏まって話すよりかは緩くやった方が話しやすいだろうし、俺も賛成だ。何より甘野さんお手製のお菓子が食べられるんだから、参加しない手はない。

 

 全員が揃っている今のうちに次の日程を決めることになり、キテレツ荘のイベント行事に新しく座談会が組み込まれることとなるのだった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 第1回目の座談会から1カ月が経ち、6月上旬。いつものようにちゅうじんに留守を任せて家を出ると、恵美さんが隣の家から出てきた。


「あら、多田くんじゃない。せっかくだから途中まで一緒に行きましょうか」

「そうですね」

 

 俺と恵美さんは廊下を歩いて、1階へ続く階段を降りる。


「そういえば、漫画原作大賞の方はどうなりました?」

「もうばっちりよ。あの後、帰ってすぐに構想練って書き始めたんだけど、結構筆が進んでね。あれなら一次選考は突破できるんじゃないかしら」


 恵美さんは誇らしげに語った。賞に出し終わったからか、目の隈もだいぶ薄くなっている。きちんと寝れているようで何よりだ。その反面、俺はというと激務で更に隈が濃くなっている。あれ? おっかしいな……。やっぱそろそろ辞職を考えた方がいい気がしてきたぞ。

 理不尽に嘆きつつ、俺は恵美さんに問いかける。

 

「ちなみにどんな内容なんです?」

「んーっとね、あやかしの見える青年が地球を侵略しようとしてきた宇宙人と出会うんだけど、仲間のあやかしたちと協力してあの手この手で侵略を阻止しようとする話よ。言ってしまえば日常コメディね」

「へぇ~、なかなか面白そうですね」

「でしょ?」


 コメディか……。確かにちゅうじんが来てからはコメディ色というか、俺のツッコミ頻度が確実に上がっている気がする。けど、今のところ地球侵略の予見は無いから安心っちゃ安心だな。あやかしと協力するなんてことも無いし。そもそも俺たちは祓う側だから間違ってもそれは無いんだけど。そこらは今とは大きく違うところだ。

 でも、パッと聞いただけでも座談会で出てきた話が結構盛り込まれてる。

 

「1次選考の結果が来るのは8月だからもう少し先なんだけど、どうなるのか楽しみだわ」

「通ってるといいですね」

「そうね。っと、それじゃあ私はこっちだから」

「えぇ。それでは」


 キテレツ荘のロビーから出た俺と恵美さんは互いに反対方向へと歩いていくのだった。

 

 

☆あとがき

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