第4話 目が覚めたら光線銃
ちゅうじんがうちに来てから1週間が経った。俺は約1カ月ぶりとなる休日を迎えていた。今日は仕事も休みだから滅多にできない2度寝をしてやろうと、再度布団を被って惰眠をむさぼるために目を閉じる。
が、その瞬間、勢いよく自室のドアが開いた。目を開けなくても分かる。またしても、ちゅうじんが厄介ごとを持ちかけてくるパターンだ。俺はこの1週間で嫌という程、アイツの自由奔放さに振り回されてきた。
だが、この2度寝だけは絶対に死守してやる。意地でも目を開けてやるものか。そう目を固く瞑っていると、やけに冷たいものが眉間に当てられている感覚を覚えた。不思議に思いながらチラリと目を開けてみると、そこには光線銃を俺の眉間に当てているちゅうじんがいた。
いや、何事!?
突然のことにぶわっと冷や汗が流れる。すると、ちゅうじんが光線銃を向けたまま、脅し口調で話してきた。
「今すぐスマホ買ってこい。もちろん、iPhaneの最新機種でナ」
「はあ⁉︎ あれどれだけ高いと思ってんだ! てか、久々の休日なのに人をパシるとか信じられ――」
「グチグチ文句垂れる暇あったら、さっさと買ってこいヨ。大体、お前が言った条件のせいでこっちはロクに外にも出られないんだからナ。脳天撃ち抜かれたくなかったらさっさと準備しろ」
「い、今すぐ買ってきます……!」
ちゅうじんに脅された俺は、慌ててベッドから飛び起き、出かける準備を済ませて家を出た。
いや、流石に光線銃は反則だろ……。てか、なんつー危ないもん持ってんだよアイツ。めちゃくちゃおっかねぇな。
4月だというのに、3月上旬並みの寒さの中、俺は携帯ショップへと向かう。だが、こんな朝早くに行っても開店時間までは程遠い。そこで、適当に暇をつぶそうと近所をぶらぶらし始める。
普段は仕事で忙しかったので、ここら辺をゆっくり見て回るのは初めてだった。
なんやかんや、近くを散歩していたら開店時間になり、俺は朝一番にお店へ入る。さっさと購入して帰ろうと、最新機種のスマホを手に店員さんの元へと向かう。ちゅうじんには戸籍がないため、俺の名義で購入することに。
◇◆◇◆
「ただいまー、ほら買ってきてやったぞ」
「おー! サンキュー!」
帰ってきて、スマホをちゅうじんに渡すと、本人は子供のように飛び跳ねながら喜んでいた。それを見届けた俺は、再度2度寝を決め込もうと、自室へと戻る。すると、ポケットに仕舞ってあった自分のスマホから着信音が鳴った。
「こんな休日に一体誰だよ……」
面倒だと思いながらも出ないわけにはいかないので、仕方なくスマホの画面をオンしてみたら、課長から電話がかかって来ていた。俺は慌てて電話に出る。
「はい。もしもし? 今日、こっち休みなんですけど、なんかありました?」
『あー、良かった。実はが発生してな。今すぐ来られるか?』
電話越しに職場の上司である室長からそう訊かれるが、元よりこちらに拒否権はないので、俺は向こうへ聞こえない程度に溜息を吐いてから、行きますと返事をする。その後、何度かやり取りをして電話を切ると、急いで出かける準備に取り掛かった。
「おーい。ちゅうじん。留守番頼んだー」
「おー、分かった」
ちゅうじんはさっそくスマホへ夢中になっているようで、空返事をしてきた。そんなちゅうじんに呆れつつ、観光省へ向かうために家を出るのだった。
◇◆◇◆
そして、機械トラブルとついでに仕事を割り振られ、現在時刻は19時。予定になかったことまでやらされて、へとへとの俺はやっとの思いで家の前までたどり着いた。
さっさと飯食って風呂入って寝よ。
そう思いながら、玄関の扉を開けた瞬間、大量のダンボールがこちら目掛けて雪崩れ込んできた。
「な、何だこの量のダンボールは!?」
「あ、帰ってたのか」
「お、おい。まさかこれ全部……」
「あぁ。ボクが頼んだものだ。このネット通販とか言うので頼んでみた!」
誇らしげにスマホ画面を見せてくるちゅうじん。画面には大手通販サイト・Amezonのホームページが映っている。
「……一体、誰が払うと思ってんだよ……」
「え、誰だ?」
「俺だよ俺」
ちゅうじんの後先考えない無鉄砲さに頭を抱えながらも、ひとまず家へ入るためにダンボールをちゅうじんと手分けして退かしていく。15分ほどでやっと入れるようになり、俺はソファにて一息ついた。だが、ここであることを思い出す。
「そういや、お前どうやってその荷物受け取ったんだ?」
「え? どうやってってそんなの直接に決まってるじゃないか」
「……は?」
だとしたらめちゃくちゃマズくないか……。宇宙人の格好のまま宅配業者の人と会ったってことだよな。ってなったら、宇宙人がいるって今頃噂になっていてもおかしくない。マジかよ。どうすんだよ。でも今更、宅配業者に連絡入れて挽回しようにも遅いしな……。
「そんなに悩まなくても大丈夫だ」
「え……?」
「ギリギリに気づいて、記憶操作したからな」
「いや、そんなことして大丈夫なのかよ⁉」
てか、今、俺の心読んだよな? しかも記憶操作って、そんなおっかないことまでできちまうのかよ……。凄いを通り越してなんか怖くなってきたな……。ちゅうじんは怒らせたらヤバい。下手したら記憶消される。これからはもう少し穏やかに接しよう。あ、そうだ。
嬉しそうにダンボールを開封していくちゅうじんを見て、思い立ったことがあるので、訊いてみる。
「この際だから聞いておくが、他に何ができる?」
「あー、そうだな。念力は勿論、念話とか……。後、擬態もできる。……ん? 人間に擬態すれば、自由に外に出られるじゃ⁉ わぁ、ボクってば天才!」
「いや、それがそうも行かないんだよな……」
「何でだよ? ボクの擬態なら宇宙人だってこと誤魔化せる」
ちゅうじんが言ってるのは、一般的な話だ。ただの一般人ならそれでも擬態でもなんでもして正体を誤魔化せるだろう。けど、この世には少なくとも例外が存在する。
ちゅうじんが首を傾げる中、俺は口を開ける。
「この世界にはな、
「そうなのか?」
「あぁ。他にも世間的には知られちゃいないが、
具体的に言えば、あやかしとか怪異の部類だ。ごくたまに神の化身なんかが紛れてることもあるが、それはそれ。とにかくそういう宇宙人だったり、祟魔が視えるやつ人は少なからず居るのだ。ちなみに、このキテレツ荘の入居条件は霊眼を持っていること。物好きな大家がそう決めたらしい。つまり、外に出たらちゅうじんの正体は即バレてしまう。
と、ちゅうじんは俺の話を聞いて、ふと口にする。
「人ならざるモノ……? そう言えば、UFOを修理しに裏山へ行ったとき、なんか角の生えたおっかな気持ち悪い輩に遭遇したな」
「何? ってことはちゅうじんお前も視える性質なのか。じゃなくて、俺の知らん間に何勝手に出歩いてんだよ! 早々に約束破ってんじゃねぇか!」
「まぁ、誰にも見つからなかったし良いだろ」
いや、何にも良くねぇよ。もし、見つかってたりしたらタダじゃ済まないんだぞ⁉ さてはコイツ危機感が欠落してるな……。
頭を抱えながら、嬉しそうにダンボールの中を開けていくちゅうじんを見つめる。
「はぁ……全く。とにかくそういう訳だから、次からは絶対に出歩くなよ? バレたらとんでもないことになるからな」
「分かった。これからは気を付けよう」
本当に大丈夫かよ……。まぁ、これからは今まで以上に注意して見とかないと何しでかすか分からんからな。用心しておくべきだろう。
俺はそう結論付けると、ダンボールを片付けるため、開封作業を手伝うのだった。
☆あとがき
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