第2話 同居の条件
「誰だオマエ」
「いや、こっちが訊きたいわ! 大体な、なんで仕事終わりに晩酌しようと思ってた矢先、うちに突っ込んでくるんだよ。こんな状況じゃ晩酌どころか、おちおち寝ることもできねぇじゃねぇか!」
「お、落ち着けよ……」
目の前にいるソイツは、冷や汗を垂らしながら怒り狂っている俺を宥めようとしてくる。だが、到底そんなことで収まるはずもない。俺は持っていたポールを持つ手に力を込め、更に続ける。
「誰が落ち着いてられるか! お前、この惨状どう片付けるつもりだ!? 勿論、弁償してくれるんだろうな!?」
「す、すいません……」
宇宙服を纏ったままのソイツは俺の圧に押されたのか、申し訳なさそうに謝ってきた。このまま怒鳴っていても、事態が解決するわけではない。俺は溜息を吐きつつ、怒りを鎮める。
改めてリビングを見てみると、晩酌用のおつまみは皿が割れ、中身が床に散乱しており、缶ビールも中身が床にこぼれていた。勿論、テレビも故障していて、窓ガラスの破片も至る所に飛び散っている。だが、幸いなことに被害はリビングダイニングに収まっていた。
「で、なんで落ちてきたんだよ」
「あー、えっと……。ソレハダナ……」
宇宙人はそれから長々とここに墜落するまでの経緯を語ってくれた。宇宙人の話を纏めると、こういうことらしい。
全ての発端は1週間前のこと。星々の偵察が任務の宇宙人はその日、偵察を終えて自分の住む星である惑星・ルプネスに帰還している途中だったらしい。
第6偵察隊の隊長である宇宙人を先頭に、数万光年先の故郷・ルプネスへ向かうためにワープしようとしたその時。先頭にいた宇宙人は突如として、UFOごと見知らぬ空間に飛ばされようだった。
そう、宇宙人はワープ事故に巻き込まれてしまったのである。
「んで、その後、ワープの影響で通信機能がやられて、あてもなく飛ばされた空間を彷徨ってたらこの星――地球を見つけたわけか」
「まぁ、そういうことダナ。それにしても、あの超音速で飛んできた物体には驚いたゾ」
「え……? どういうこと?」
またしても宇宙人は話し出す。彼(?)は、地球を発見し、せっかくだからと世界中をUFOで飛び回っていたらしい。多分、さっきのUFO特集で流れてたのが宇宙人の機体だったんだろう。
そして、日本海上空を飛んでいたその矢先、超音速ミサイルが突如として、宇宙人の機体に激突。その反動でミサイルは日本海に落下。宇宙人の乗ったUFOはそのままこの俺の家に墜落してきたらしい。
「だからって、なんでこんなピンポイントに俺の家に墜落してくるんだよ⁉︎ こっちは良い迷惑なんだが?」
「偶然そこにオマエの家があったからダロ」
「おい」
にしても、また突拍子もないな。でも言ってしまえば、宇宙人のおかげでミサイルが東京に飛んでくることもなかったわけだし。んー、良いのやら悪いのやら……。まぁ、それは一旦置いておいて。
「これからどうするんだよ?」
「ソウダナ……。この機体はミサイルとオマエの家にぶつかったせいでしばらく動かないし、通信を取ろうにも機能してないからナ。――住むところがないから、オマエの家に住まわせろ」
「いやなんでそうなるんだよ⁉︎」
宇宙人の返答に光の速さでツッコミを入れる。コイツ、何食わぬ顔でとんでも無いことを言い出したな。何がどうなったらそういう思考になるんだよ。
呆れた表情を浮かべていると、宇宙人がこう言いだした。
「だって他にアテがないからナ」
「いやそうだとしても、そんなの無理だ」
今よりもさらに面倒なことになるのはごめんだし、この宇宙人放っておいたら何するか分かったもんじゃないからな……。
けど、宇宙人は他に頼れる人がいないのは事実で、このまま放っておけば問題になるのはほぼ間違いない。そうなったら困るのは俺だけじゃないしな。
仕方ない。今まで面倒ごとに遭遇しては何とかしてきたんだ。今回も何とかしてやるか。
「はぁ……。仕方ないから面倒見てやる」
「やったー!」
「おっと。但し、条件が3つある」
「条件……?」
宇宙人は首を傾げる。
まぁ、流石に唯で住ませるわけにはいかんからな。宇宙人に勝手気ままに動き回られて、更に問題を持ち込まれちゃ困る。こっちは唯でさえ、毎日のように仕事で忙殺されてるんだから。
んで、3つ条件を提示したは良いが、詳しいこと何にも考えてなかったな。んー、取り敢えず、この状況をどうにかしてもらうとするか。それで、人前で姿見せるのもアウトだし、それで正体がバレたりしたら大事になる。
「よし、それじゃあまず1つ目。そのでっかいUFOを何とかして隠せ。このまま
「ワカッタ。なら、どこか人があまり立ち寄らないとこってあるカ
「立ち寄らない場所か……。それなら裏山だな。窓の外から見えるだろ? あれだ」
「なるほど。あそこか」
俺が壊れた窓の方向を指差すと、突然UFOが浮き始め、裏山の方へふわふわ飛んでいった。
え、何今の……。疲れすぎて、幻覚でも見ちまったのか?
1度目を擦って、再度窓の方を確認してみる。だが、幻覚ではなく、本当にUFOがひとりでに裏山の方へと飛んでいた。
ま、マジか……。
目の前の光景に唖然としていたら、宇宙人がこちらに向き直った。
「どうかしたか?」
「い、いや……。何したの今?」
「ん? あー、今のは念力だゾ。物を浮かして操れるんだ。ちなみにUFOには迷彩機能がついてるから誰にも見えないゾ」
「え、凄っ」
宇宙人って超能力とか持ってるイメージがあったけど、本当にあるんだなそういうの。SF映画の中だけって思ってたわ。ってことは、念力以外にもテレパシーとか使えたりするのか? 仮に、もしそうだとしたらだ。
「もしかして、このリビングも元に戻せたりできるのか?」
「できるぞ」
「マジか。てか、それができるんなら早く言えよ」
「あー、すまん。この星の生命体もそういうの使えるのかなって思って、つい言うの忘れてた」
いや、流石にそれは無理だっての。まぁ、俺たち人間の中にもあやかしが見えたり、そいつらを祓えたりするやつらがいる。でも、みんながみんな超能力を使えるわけではない。俺はあやかしを視ることができたり、祓えたりはするが、能力は持ってないタイプの人間だ。まぁ、それは置いておいて。取り敢えず、リビングの修理は宇宙人に任せても大丈夫か。これで第1の条件はクリアだな。
「それで、他の2つは何なんだ?」
「2つ目は、他の人にお前の正体が宇宙人だって知られないようにすること。何があっても誤魔化せよ。3つ目は2つ目と直結してるけど、正体がバレないように家から絶対に出るなよ」
「それぐらいならお安い御用だゾ」
「よし、なら決まりだな」
宇宙人の返事を聞き、握手をしようと右手を出す。だが、ここで宇宙人の名前を聞いていなかったことを思い出した。俺は宇宙人に名前を尋ねる。
「名前……? なんだそれは?」
すると、宇宙人はきょとんと首を傾げながら、訊き返してきた。
な、なるほど。そもそも名前の概念が無い感じか。てっきり、俺ら人間と同じように名前があるのかと思っていたけど、そういう訳でもないんだな。まぁ、文化が違えばそうなるか。よし、それじゃあ軽く説明してやるか。俺はそう思うと、宇宙人に名前とはどういったものかを説明する。
「ふむふむ。ワタシたちの間でいう識別番号みたいなモノカ」
宇宙人は納得したように首を縦に振る。
ひとまず、名前の概念は説明できたから、次はコイツの名前をつけなきゃならないな。他人(?)に名前なんて付けたことないし……。どうすりゃいいか分からんけど、適当につけてみるか。んー、そうだな。宇宙人だろ……。あ、識別番号から取ってみるのはどうだ?
「お前の識別番号ってどういう感じのやつだ?」
「えーっと、CH-001だゾ。乗って来た機体にもそう書いてある」
おー、なるほど。そうきたか。こりゃ識別番号から取るのは無理だな。もっと他のを考えないと。んー、宇宙人。宇宙人……。あ、そうだ。
「う・ちゅうじんとかどうだ?」
……いや、いくら頭が回ってないとはいえ、流石に安直すぎるよな。やっぱ今のなしにして、もっとまともなの考えよう。
「う・ちゅうじん。良いな! なんかかっこいいゾ!」
「え、そんなので良いの?」
「うむ。 ワタシはこれから、う・ちゅうじんだ」
宇宙人は嬉しそうに笑みを浮かべている。
ま、本人が気に入ったようだし、これでいっか。またなんかあったら、考え直せばいい話だしな。
「ところで、オマエの名前は?」
「
「おう!」
俺はちゅうじんの方へ右手を差し出して握手をする。
これからはちゅうじんがうちに居候することになるのか。なんか不思議な感覚だな。宇宙人と一緒に生活なんて。まぁ、1人で過ごすよりかは賑やかになるだろうしな。
欠伸をしながら、ふと時計の方に目を向けてみたら、もう深夜1時を回っていた。そろそろ寝ないと明日に響きそうだな。
「それじゃあ、夜遅いし明日も仕事だから、風呂入って寝るわ。後、よろしくな」
「了解だゾ。オータが起きるまでには直しておく」
ちゅうじんに後を任せて、一旦風呂に入る。シャワーを浴びて、浴槽に溜まっているお湯に浸かって、深く息を吐いた。
一時はどうなることかと思ったけど、この調子なら何とかなりそうだな。それはそうと、明日起きたらリビングが直ってますように。後は、俺が仕事行ってる間、ちゅうじんにはここで留守番してもらうか。
風呂から上がって髪を乾かし終わると、疲れが溜まっていたのか、すぐに睡魔が襲ってきた。さっさと自室に移動して、ベッドに潜る。目覚ましをセットし終わると、俺は眠気に抗うことなく目を閉じるのだった。
◇◆◇◆
そして、朝。眠たい目を擦りながら、寝室から出てリビングへ向かう。
「おいおい、何だよこれ……」
リビング中、お菓子の袋や漫画、電化製品に至るまでありとあらゆるものが浮いていた。そのままソファの方に視線をやってみれば、ちゅうじんが寝転がって漫画を読みながらお菓子を頬張っている。
「あぁ、起きたか」
「起きたかじゃねぇよ! 何勝手に家の物散らかしてくれてんだ⁉」
朝から俺の怒号が部屋中に響き渡るのだった。
☆あとがき
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【毎日更新】宇宙人が家にやってきた!~社畜公務員の俺、破天荒な宇宙人と同居する~ 桜月零歌 @samedare
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