【第2章完結/毎日更新】宇宙人が家にやってきた!~社畜公務員の俺、破天荒な宇宙人と同居する~

桜月零歌

第1章 宇宙人とキテレツ荘

日常と非日常編

第1話 宇宙人が家にやってきた!

 ──ここは『噂や伝承などが具現化する世界』。

 人智を超えたものはその力によって具現化され、現世へ現界する。


 そして、その力により世界には古来より"祟魔すいま"と呼ばれる妖魔奇怪が蔓延っていた。


 それらを祓うのは、"代報者だいほうしゃ"と呼ばれる神に使える者たち。かの陰陽師・安倍晴明や邪馬台国の女王であり巫女であったとされる卑弥呼もその1人。そして、今日その役目は神に仕える神職たちにあった。


 彼らは現世に干渉することのできない天界に住まう神達に代わって、森羅万象を見通す目"霊眼れいがん"、浄化作用を有する"祓力ふりょく"、浄化作用を有する異能力・"祓式ふしき"と呼ばれる力を使い、日夜祟魔を祓っていく。


 2026年4月某日。京都市に隣接する奇異市にて、代報者の1人である多田太郎おおたたろうは破天荒な宇宙人と遭遇することになる。

 

 ◇◆◇◆



「あ゛ー、やっと終わった……」


 仕事終わりの俺は、『キテレツ荘』とプレートに書かれた3階建てのアパートに入っていく。


 大体、公務員のくせになんでこんな遅い時間まで労働しなきゃいけないんだ。公務員は基本、定時で帰れるんじゃなかったのかよ……。


 俺はそのままアパートの階段を上がって、自分の家である302号室を目指す。

 

 やけに静かだな……。あぁ、そういや、今日の夜はここの住民は俺以外いないんだっけ。ってことは、騒ぎ放題ってわけか。かと言って、基本帰って風呂入ったら速攻で寝るだけなんだが。


 3階まで上がって、1番端っこの号室まで移動する。自分の苗字である『多田おおた』と表記されたネームプレートを確認したら、鍵を取り出し扉を開けた。

 

 当然、1人暮らしだから部屋の電気もついてないし、中には誰もいない。俺は電気のスイッチへ指をかけて灯りを付けると、廊下を通過してリビングの方へ向かった。

 鞄を適当に床に下ろし、ひとまずテレビをつけてみる。リモコンを操作して番組を見てみるが、UFO特集の深夜番組ぐらいしか面白いものはやっていなかった。俺はテレビの音をBGM代わりにしつつ、部屋着に着替えるため自室へと向かった。


「さて、まだ仕事が山ほど残ってるけど、その前に1杯やりますか。毎日のように同僚が仕事を押し付けてくるから、飲んでないとやってられん」


 着替え終わったので、自室からリビングへ戻り、冷蔵庫の方へ移動する。中には買い置きしてある食材や飲料水が入っていた。その中から缶ビールを取り出すと、リビングテーブルに置く。


 えーっと、なんか酒のつまみになるものってあったっけな……。


 再び冷蔵庫の方に戻って、その中から適当につまみの材料を出す。その後、10分足らずでつまみを完成させたら、そのままテーブルにお皿を置いて椅子へ座る。


 と、ここでニュース速報が入って来た。放送されていた深夜番組は報道画面へと切り替えられ、画面上部にテロップが表示されると同時にアナウンサーが喋り始める。内容を聞くに、どうやら、東京方面にミサイルが発射されたらしい。


「うぉ、マジか……」


 念のため、こっちにもなんか来てないか確認してみるか。


 俺はソファまで移動すると、鞄に仕舞ってあったスマホを取り出し、着信がきていないかチェックする。自分の職場である観文省かんぶんしょう、正式名称・観光文化省の専用ホームページにアクセスしてみるが、特に何もきていないようだった。


「んー、今のところは問題なしっと」


 にしても、こんな深夜にミサイル打ってくるなんてな……。あー、おっかねぇ……。


 観文省は幸いなことに東京ではなく、京都に位置しており、俺が今いる奇異市から、電車で大体1時間半の場所にある。もし、こっちに飛んできてたら危なかった。


 ホント、宮内省くないしょうじゃなくて良かった……。じゃなかったら、今頃大忙しだよ。

 

 こちらには異常がないことは分かったが、このまま晩酌を続けるのもあれなので、SNSを開け、ミサイルが東京に飛んできたことに対してのSNS民の荒れようを眺めていく。


「ふわぁぁ……眠っ」


 アナウンサーの緊張感のある声を聞きながら、SNSを眺めること5分。ふとテレビの方に目を向けてみると、新しい情報が入って来たようで、アナウンサーが渡された紙を読み上げていく。


『ここで、新しい情報が入ってきました。防衛省によりますと、東京方面に向けて発射されたミサイルは突如として方向を変え、日本海に墜落。日本への影響はなくなったとのことです。また、ミサイルの進路が変わった件については分かり次第お伝えします』


「え……?」


 俺、ミサイルに詳しいわけじゃないけど、そんなことあるのか……。世の中本当に不思議だな。


 テレビから流れてきた情報に一瞬、耳を疑う。が、一般公務員ごときに分かるようなことでもないので、俺はそのまま視線を戻し、スマホ画面を見る。だが、ミサイルが逸れ、日本への影響が無くなったことにより、SNSでは普段通りのやりとりが流れてくるだけだった。


 少しして、スマホを部屋着のパーカーのポケットに仕舞い、缶ビールを開けようと指をかける。その直後、ぞわっとした感覚が背中を襲った。

 何事かと思い、ふと窓の方に目を向けてみると、巨大な何かがこちらに猛スピードで迫ってくるような音がした。


「なんだなんだなんだ!?」


 俺は慌ててリビングを出て、玄関の扉を開け外に出る。その瞬間、ガシャーン! という音がアパート全体に響き渡った。

 音が静まった頃を見計らって、玄関の扉を開けて中に入ってみる。慎重に廊下を進みながら、周囲の安全を確認していく。どうやら、自室やバストイレなど、リビングに至るまでの場所は無事のようだ。


 さて、問題はリビングの方だが……。なんか……光ってねぇか?

 

 異常事態を察知した俺は洗面所へ向かう。洗面所の鏡に毛先が少し跳ねたショートの茶髪に黒眼、部屋着姿の自分が映る。俺は奥の方にある物干し竿からポールを抜き取り、それを持って恐る恐るリビングの方に入ってみる。と、巨大質量の物体がリビングの3分の2を占拠していた。よく見てみたらそれは、銀色の円盤の形をしており、先ほどの特集番組で映っていたUFOにそっくりだ。


「う、嘘だろ……? いやいや、そんなまさか……」

 

 目の前の光景に動揺していると、UFOらしきものの中から宇宙服のようなものを着た何かが出てくる。俺は咄嗟に持っていたポールを構えて、ソイツを警戒する。すると、光線銃らしきものをこちらに向けたソイツは、手首に巻いてある何かを操作した。すると宇宙服のヘルメット部分が宇宙服の中へと消え、歪な頭をした灰色の顔に、大きな黒目を持った宇宙人が俺を見る。


「……誰だオマエ」

「いや、こっちが訊きたいわ!」

 

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