★900記念sideストーリー ミツコ、エースになるってよ

side8-1 ミツコ、エースになるってよ 上

 この話は★900、1000、1100記念分のsideになります。

 帝都騒乱で声のデカさでヤマタノオロチを倒した(誇張表現)蒸気甲冑乗りミツコの、帝都騒乱直後のひと騒動の話です。


 先にサポーター限定で先行公開したものと同じになります。

 上中下3編。

 まずは上から。よろしくお願いします。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帝都火撃隊──


『花』『鳥』『風』『雪』『月』の五つのグループからなる組織であり、それぞれのグループのリーダーがいわゆる『エース』と呼ばれ、専用の蒸気甲冑に乗り込むことができる。


 それぞれのグループには特色がある。


 まず花組は総合力を問われる組だ。

 このグループのエースは桃井もものいである。

 神威強化ブーストを発動すると瞬間的な加速・制動を可能とする能力はあらゆる面で応用が効く。

 まず腐ることのない、広い用途を持った能力であり、さらに本人の視野の広さと、苦労人かつ常識人で世話焼きという性格もあって、エースたちのまとめ役をやらされていた。


 花組の選考基準はこのような総合力、あとは人柄である。

 まとめ役、苦労人などの性格の者が多く、自由人の多い組などからは『委員長タイプ』などと呼ばれていたりもする。



 鳥組を飛ばして『風組』について語れば、このグループで求められるのはとにかく単独での強さである。

 エースグループのリーダーは満場一致で桃井だが、最強はと問われれば白瀬しらせ一択だろう。

 騎兵に乗るが剣士でもあるという特異な才能を持った彼女は、無口で無表情、言葉少ないながらも、その個人戦闘能力によって奇妙なほどのカリスマを発揮している。

 先の帝都騒乱においても、騎兵メタとも言える敵への対処として、蒸気甲冑から降りて剣で戦ったぐらいであった。


 ……ちなみに、通常、騎兵には騎兵の才能が必要で、剣士には剣士の才能が必要なので、この二つは両立できない。


 これを両立させるのがエースにまで選ばれる才能であり、加えて、帝都蒸気甲冑という秘密兵器のブラックボックスに秘められた特殊な変換機能になる。

 この変換機能は搭乗した者をという他に類を見ないものであり、あらゆる機工甲冑を操縦できない剣士・道士さえも騎兵となることが可能なものである。


 そういった特殊な変換機能を前提としているため、風組には剣士が多い。

 とはいえ『剣士の才能がある』ことは『剣士として強い』ことではなく、もちろん『全員が名家の出身である』という意味ため、構成メンバーのほとんどは、『剣士の才能が発覚した平民』であった。

 白瀬もまたそういった出自である。だが、あまりの強さから『どこかの名家の御落胤ごらくいんではないか?』と噂されていた。

 本人は否定も肯定も面倒なので無視しているが、そのせいで御落胤視が加速し、まったく知らない名家が親を名乗り出したりという謎の現象が起きていた。なお、白瀬の両親は健在で、二人とも三代遡っても平民である。



 雪組は騎兵の整備なども担当する者たちであり、伝統的にというのか、すでにだから同じような性質の人が引き寄せられるというのか、男っぽい容姿・性格の女性が多い。


 くれぐれも勘違いしてはならないのだが、帝都火撃隊、その母体である歌劇団、


 エースが偶然にも全員女性だけということで男性がいないものと思われるのだが、男も普通に在籍している。


 が、それでも雪組から多くのが輩出されるのは、歌劇団の柔軟性というのか、そもそも団の起こりが『帝の活躍を演じるため、当時戦った者と同等の実力を身につけるべし』というゆえだろう。


 腕っぷしが必要な役の場合、オーディション時点で


 もちろんだが現代日本、いや世界を見回しても、『この役は強い人物なので』みたいなことをやっている劇団など存在しない。


 が、そういうことをやる帝都歌劇団において、だいたいいつも勝者はこの雪組の女性がかっさらっていく。

 もちろん剣士役の時には剣士が出るので、整備なども担当する騎兵でしかない雪組が毎回優勝ということはない。

 だがそれ以外においてはだいたいいつも勝つ。ゆえに雪組エースの黒沢、男役として有名であった。



 月組は伝統的に道士が多く、同時に一癖ある不気味な役を任されることが多い。

 別におかしな性格の役をやらされているからといって、中の人までおかしな人である必要はない。

 が、月組はエースの青田平あおたたいらを筆頭に癖のある人格の持ち主が多く、他の組から少し距離を置かれている人材が長年に渡って集い続けている。


 これは現代風に言えば『メソッド演技』と呼ばれる役の作り方をしているという見方もあるが、まあ、入ってきた当初もそうだし、役が決まっていない時期もだいたい変人といった者が大多数なので、普通に変な人の巣窟であろうという見方が優勢であった。


 歌劇団としては『帝に力を授ける謎の女道士』やら『意味深な忠告をしてくる老婆』やらの役所を演じるケースが多いが、火撃隊としては神威強化ブーストによって対象拡大化をした広範囲道術を放つという、大砲役が多い。

 一対一の戦闘においては『ひたすら距離をとってチクチク攻める』だの『罠を仕掛けて誘導する』だのの戦い方が多く、どうにも陰険、不気味というイメージがつきがちである。

 もっとも、月組のメンバーはそういう評価を好む傾向もあり、ますますおかしな人の巣窟になっていく、という歴史的背景があった。



 そして、鳥組。


 この組、優れた家柄の血統であることが参加条件である。

 特に帝の祖が主役の舞台(帝の祖の活躍を演目にするのが歌劇団の伝統だが、その主役は必ずしも帝の祖ではない)において、主役は必ずと言っていいほどこの組から選ばれる。


 この組の、……


 


 言うまでもなく熚永家は、かつて帝の祖とともにクサナギ大陸統一を果たした者を祖とする御三家が一角。

 アカリは直系の子孫ではないものの、本家に愛され引き取られた秘蔵っ子であり、家柄も家での評価も充分。

 さらに演技力もあり強さもあり、天性のアイドル性まであったため、鳴り物入りで帝都歌劇団に入団。そのままめきめきと頭角を表し、入団から一年で鳥組エースにまで上り詰める。


 しかし先日、


 そういった事情で現在、鳥組はエースが不在。

 なおかつ、熚永アカリのやらかしのせいで、次のエースにも『もしかしてあいつも、謀反にかかわっていたんじゃないか』というが立つ危険性が高く、そういう事情からやりたがる者もいない。


 しかし、アカリがやらかしたからこそ、アカリに代わる新たなエースは絶対に必要である。


 誰か、いないだろうか?


 帝都火撃隊のエース選考は、帝にとっても重要なことである。


『帝と言えばその直属の帝都火撃隊』というぐらい、世間において火撃隊と帝とのイメージは同一視されている。

 帝都騒乱で上層部一新レベルのゴタゴタがあり、さらに火撃隊の中でも帝への忠誠が特にあつくあるべき鳥組エースの裏切りというのもあって、この悪いイメージを一新する新エースの選考は必須。


 しかし同じ鳥組出身だとどうしても『熚永アカリの息がかかっていたんじゃないか』という疑いが払拭できない。

 というより、御三家のアカリ、帝配下の中でも上層に位置する、同じく御三家の元家老七星への神器にまつわる疑惑、侍大将まで裏切っていたことから、いわゆる『お貴族様』への信頼が底値になっている。


 誰か、いないだろうか?


 そう、たとえば……


 出身は平民。これまでアカリと接点のなかった別の組に所属しており……

 なおかつ予備員、つまり『ではないにせよ蒸気甲冑への搭乗を許されている』という実力者。

 しかしただ蒸気甲冑に乗れるだけではなく、エースには必須である神威強化ブーストができるぐらいの技能と神威量があり……

 あと人格もできたらアカリと正反対、というかいかにも裏がなさそうな感じがよくて……


 重要な点として、先の帝都騒乱である程度の活躍があった者がいい。


 というわけで、こんな名前が帝に上がってきた。


國府田こうだミツコなる者がいるのですが……」


 かくして、帝都騒乱において國府田ミツコ。

 まったく縁のない鳥組エースに大抜擢されることになったのだった。

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