第83話 『酒呑童子』討伐・海の陣 六
『
ここを任されたのは
ここには七星家家臣団のほとんどがおり、これらを
なお、忍軍の中でも梅雪への忠誠がない者は、山から帰らせている。
阿修羅は『梅雪の兵力に数えられている者のみがシナツの加護の恩恵を受けられる』というシステムについて知らない。
だが、忠誠している者に比べてなんとなく動きが悪いことはわかるので、ここから先の戦いに連れていくより、氷邑本家への連絡役に回したと、そういう事情があった。
状況を見れば、
結果的には、『海』となっているのは大江山のごく一部、梅雪たちの周囲のみであった。
もちろん神の力を十全に振るうことができれば、大江山すべてを水浸しにすることも可能であった。
だが、今、邪悪にしておぞましき
その活動が大辺の発想の外に出ない。
仮に大辺が調子に乗らずに、この神の触腕や鷲掴みの操作権もイバラキに譲渡していれば、もっと広範に渡って『海』を展開し、地形さえも自在に変え、精神・戦術両面で梅雪ら一行を詰んでいくことも可能であった。
だが、現在の海神の動きはといえば、その手で握りつぶそうとしたり、触腕で叩き抉ろうとする力押しのみである。
阿修羅は触腕の動きからなんとなく操作する者のあまり賢くない感じを理解しており、無意識のうちに最適解を選んだと、そういうことであった。
アシュリーならぬ阿修羅は、考えている。
(そろそろなんか、来そうだなぁ)
未だ、部隊中央に差し向けられているのは触腕のみである。
七星家家臣団の横を並走しながら補助している形だが、問題が起こりかけたのは、梅雪から世話を任された
それ以外には、触腕の攻撃も含めて問題は起きていない。
触腕は触腕で脅威なのだが、今、ここで駆け抜けている七星家家臣団は、触腕の目撃に伴う正気度喪失は潜り抜けている。
また、彦一や梅雪のように一撃で斬り捨てるとまではいかないものの、なぜか軽くなった体や剣のお陰で、斬り払うぐらいのことはできるようになっており……
触腕が脅威とはみなされなくなりつつあった。
もちろん油断をすれば死、山駆けに失敗して足をとられ、体勢を崩したところを打たれれば死という状況ではある。
だが、いい意味で覚悟が決まっており、また、
だから、阿修羅は察する。
(ここらへんで嫌がらせされそうだな。相手さん、ずいぶん、性格が悪そうだ)
阿修羅は、搭乗しているアシュリーの顔を借りて、つまらなさそうに鼻で笑った。
……これは完全に好みの問題なのだが、阿修羅は相手と正々堂々とした正面衝突を好む性分である。
それも、技術の競い合いではなく、体と体のぶつかり合い……ようするに、相撲だ。
阿修羅の人格はおおむね六歳ぐらいの力自慢の男の子であり、ガキ大将といった性分を備えている。
それだけに『絶対敵わない』と思った相手を慕うのにも迷いがない。
ようするに、阿修羅をして『対応方法が全然わからんが、とにかくすげぇ手段』と呼ぶしかない攻撃で自分を負かせた梅雪は、尊敬する兄貴になっている。
そういう性格の阿修羅にとって、今現在、この青黒いうねうねしたキモいやつを操ってるヤツは、たぶん性格の悪い陰険ババアなんだろうな、と予想できるものだった。
性別については梅雪が知ってる感じだったのを言動から察している。巫女という言葉が頭の片隅に残っていたのもあるだろう。
で、そういう性格の悪いババアは、こっちが慣れたところに攻撃を仕掛けてくるわけだ。
「こんなふうに、なぁ!」
阿修羅の足裏に備わったキャタピラが駆動し、山道の土を巻き上げる。
急加速をして横を通る七星家家臣団を追い抜いた阿修羅の向かった先に、あとから青黒い水たまりが中空に発生した。
阿修羅、その水たまりに迷いなく張り手。
超重量の機工甲冑が急加速し、風の神の加護まで纏いながら、まんまるの大きな体の中でも肥大して見える腕で張り手をすると、打たれた相手はどうなるか?
答え。爆散する。
……かくして阿修羅、ほとんど未来予知とも言える先読み能力によって、■■■■■の鷲掴みの湧き潰しに成功する。
中央家臣団は、出現されただけで強く精神汚染を受け、存在するだけで海水で肺を満たしてくる存在と、
中央、阿修羅の才覚と力により、■■■■■の鷲掴みを見もせずに突破。
そして──
◆
その神は人型ではある。
が、神とはあやふやな存在なのだ。
たとえばクサナギ大陸において雷と光は同一視されている。
ゆえに雷は光速であり、剣聖シンコウに加護を与えているミカヅチは、雷の神でありながら光の神の性質も持っている。だからこそシンコウは『光を断つ』奥義を編み出したのだ。
多くの現代人が『光』と称する、たとえば陽光や月光、
事実はどうであろうが、多くの人がそう思う限りにおいて、神は人の信じるものに応える。それこそが
ゆえに、邪悪なる海神もまた、信者の願いに応え……
腕を増やしていた。
中央の背を見ながら駆け抜ける
それらは狭い山道を塞ぐように浮かんでおり、なんとしても梅雪をここで握りつぶすという気合い……憎悪とか怨念とかを感じさせた。
一つきりでも絶望的なモノが六つ。
だが氷邑梅雪にとって、この程度は鼻で笑うものである。
「ウメ、二つ任す。俺たちの背を追えぬ程度に粉々にしてやれ」
「……はい」
主従がまったく速度をゆるめぬまま、六つもの『手』へと向かっていく。
……海の陣の終結は、すぐそこまで迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます