第4話 氷邑梅雪、決意を新たにする
一つ目は『師匠NTR』。
梅雪の師匠として招かれた『剣聖』が、一瞬で梅雪を見限って領を強引に脱出し、主人公の師匠となること。
二つ目は『奴隷NTR』。
梅雪なりに目をかけてやっていた(プレイヤー的にはどう見ても虐待しているようにしか思えない)奴隷が主人公のヒロインの座におさまること。
そして最後の一つが……
「あにさま!」
──『妹NTR』。
氷邑梅雪には溺愛している妹がいる。名前は『はる』。
梅雪と違い
この妹もまた、主人公にとられる。
なお、この妹、本編が始まるころには梅雪との関係が悪化している。
梅雪のほうは変わらぬ溺愛を向けているのだけれど、成長した妹のほうが、兄の人格が終わっていることに気付いてしまい、そっけなくなるのだ。
そしてそっけなくなった妹は、兄を倒そうとする主人公のもとに身を寄せ、『どうかあの悪しき兄を止めてください』と懇願し、なんやかんやで主人公に抱かれることになる。
溺愛している妹が主人公の女の一人におさまった事実は、もともと壊れ気味だった梅雪お兄ちゃんの脳をすさまじい勢いで取り返しのつかないところまで破壊し、梅雪を追い詰める一助となるのだ。
だがまだ今は男に抱かれる未来などまったく感じさせない、いとけない妹だ。
氷邑家は銀髪の家系なので妹のはるもまた銀髪に青い瞳のかわいらしい女の子であり、和服をモチーフにしたミニスカート衣装で駆け寄ってくる姿には、天真爛漫さがたっぷり詰まっていた。
まだまだ幼い妹にダイブされて、それを受け止めながら、梅雪は脳の血管がぷちぷち切れていく感覚を覚えていた。
それは『この妹が将来的にあの男のものにされる』と思ってしまったことによる耐え難い脳破壊であった。
愛しい妹を守るために、梅雪には何ができるのか?
梅雪が自分の才能について思いを馳せた時に真っ先に思いつくのは、道術である。
道術というのは木火土金水の五つの属性があり、使える属性は生まれつき決まっている。
たいていの場合、実戦投入される道士でも一つの属性を使えるだけなのだが、そこは天才設定の梅雪。なんと土、金、水の三つの属性に適性がある。
それを活かすことができないのは宝の持ち腐れであり、梅雪にはもう、せっかく持っている宝を持ち腐れている余裕はない。
実際、やられ役として配置されている時……つまりゲーム内で使っていたのは水属性のみであり、(統率が一なので)たった一人で戦場に来ては敵集団に対して大量の氷の雨を降らせて攻撃する姿がユーザーの印象には残っていることだろう。
氷邑梅雪は本当に強いのだ。
統率力がもしも百ぐらいあったなら、きっとプレイヤーは最序盤に彼の相手をするのを避けたであろう。
だが何せ統率力が一なので、主人公部隊をぶつければだいたい片付いてしまう。
以降の
なお率いている兵の数は攻防に補正をかけるので、一しかかけられない梅雪はもちろん弱いし、以降、統率が一のキャラは一人も出てこない。
だから正攻法で言えば、人とのコミュニケーションをとり、人に好かれる……せめて嫌われないように振る舞って味方を増やし、統率力一男、自分一人で軍隊を自称するやべーやつから脱却するべきなのだ。
だが梅雪は生来の呪いのような煽り耐性のなさのせいで、『いい人になって味方を増やそう作戦』が使えない。
だから彼はこういう結論に至るしかなかった。
『百倍の戦力が必要なら、自分が百倍強くなればいい』
アホの脳筋戦法以外が許されない悲しき掛け算であった。
まあ、それ以外にも備えられることはあるので、備えてもいるが……
「あにさま、あのねー」
「うんうん」
銀髪碧眼のかわいい妹が、何かを一生懸命お話ししてくれているのに、よそごとについて考えるのはあまりにも野暮であろう。
(……守ってみせる。あのハーレム野郎の魔の手から……!)
妹を抱きしめ、妹に抱きつかれ、楽しげに他愛無い報告をしてくる妹を見て、決意が新たになる。
──ウチの妹は、絶対に渡さない。
毎日過酷な訓練に身を投じ始めた梅雪に、また一つ、新たなモチベーションが加わった。
そう、氷邑梅雪は、煽り耐性ゼロの男であり……
わりと重度のシスコンでもあった。
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