天界でフリーターを始めてみましたが意外にも悪魔界の方が良さそうに見えるのだが?!

キクジロー

羽つきのフリーターが誕生していた?!


 


 ――フリーター。




 現代では底辺だのなんだの卑下される存在であり生活レベルも最底辺である。


 フリーターの本来の意味は身軽さを活かして色々な仕事をすることなのだがこの御時世、安定第一思考の人間ばかりで、フリーターよりも就職したほうが良いと考えるのが常識になっている。




 だがその中でも俺――新垣誠あらがきまことは己の固い意志を貫き、高校卒業と同時に一年生の頃から続けていた牛丼チェーン店に没頭することにした。別に進学がダルかったとか就職したくなかったと言うわけではなく、ただ単純に俺はフリーターの方が色々な経験が出来ると踏んでアルバイトに没頭する未来を選んだのだ。


 今はまだ社会的弱者なのかもしれないが、いずれは絶対アルバイトの経験を活かして何者かになってやる――と意気込んでもうかれこれ四年目。


 

 二十二の代になった俺は、未だに牛丼屋で朝から晩まで週四日のバイトをするフリーターをしている。


 あれから結局俺は特にどこかに行ったり別のバイトをするなんてことはなく、朝六時に家を出て夕方四時に家に帰るだけの生活をしっかり四年以上続けている。



 正直飽きた――。



 バイトがある日は夜の晩酌が唯一の楽しみなのだが、特に趣味もないので休日は何もなく終わってしまう事がほとんど。幸い実家暮らしのため、お金の面はそこまで痛くもない。なんならざっと八十万ほど貯金はあるのだが使い道がまったく思いつかない。


 だからまずお金の使い方の勉強をしようと思い、いろ〜んなサイトを見る休日をもう何度も送っているのだが結局どうすれば効率的にお金を使えるのか分からずそのまま寝て休日が終わる事がほとんどである。



 こ〜んな腐りきった俺の時間。



 高校卒業の時に道を誤らなければこんなことにはならなかったのにと毎晩毎晩酒を飲みながら涙するのだが朝になればそれも忘れてまた牛丼バイトに向かっている。


 しかしこんなゴミクズみたいな俺でも唯一の楽しみというか日課が存在している。



「明日は自分が変わっていますように!」



 廃業した風穴だらけの工場の中でパンパンと手を叩いて目を瞑る。

 俺の前にはどこの誰が作ったのかも分からない大きな大きな楕円形の岩が縦にバランスよく地面に突き刺さっており、沈みかけの夕陽に照らされている。


 何故こんな潰れた工場のど真ん中にあるのか分からない。しかしたまたま見つけたこの岩に俺は心を惹かれてしまい、日課というより義務のように、毎日バイト帰りにここによってお参りをしている。


 


 ――あのぉ……。



 ん?

 今誰かいたか?


 俺がお参りを終えて帰ろうとした瞬間、どこからか声が聞こえた。


 幼い、しかも女の子。



 ――あのぉ、聞こえてますかぁ?



 まただ!

 幻聴じゃない! 

 今回ははっきりと聞こえた!



 ――もしも〜し? あれれ……?



 もしかして怪奇現象?

 

 暗くなり始めた工場も相まって俺は少し怖かったのだが、足を出す事よりも返事をするほうがまだ怖くないので恐る恐る声を出す。


「はい……?」

「あ! やっぱり聞こえてんじゃん! だったら最初から返事をしてよ!」

「ごめん……」


 何故か謝ってしまった。


「新垣クンだっけ? 何で君はいっつも飽きもせずここに来てんの?」

「何で俺の名前を?!」

「そりゃあ毎日来る人の顔と名前くらい覚えるでしょ、馬鹿にしてんの?」

「顔は分かるけど名前まで分かるなんて凄いな、もしかして神様かなんかなのか?」

「ん〜、惜しい!」

「……、惜しい?!」

「ウチは神様の使い! 天使だよ!」


 天使……。


 はっは〜ん、なるほどな。


 これはもしかしてテレビのドッキリかな?

 潰れた工場に来た人を驚かせてリアクションを取る。シナリオとしては悪くないだろう。


 だからこの声はきっと音の反響を利用してエコーがかった演出を作ったといったところか。


 中々上手い。


 場を整えてもらったからにはそれに応えるのは礼儀なので俺はまんまと引っかかるフリをする事にした。


「て、て、天使だっ――」

「これはテレビじゃないよぉ?」

「……って――」

「ウチは本当に天使だよ」

「……まじ?」


 心を読まれた……?

 しかも本物の天使?


 俺は頭がゴチャゴチャになった。


「もしかして信じてないのかな? だったら見せてあげるよ!」


 自称天使がそう言うと、夕陽が沈んだと同時に光り始めた月から一直線に岩に――小さな隕石が落ちてきた。

 

 しかし隕石は岩に当たる直前で止まり、更に光を増して目を開けることが出来ないほど輝く。

 

「なんだ――?!」


 俺は目を瞑って腕で顔を隠す。

 そしてもういいかと思い腕をゆっくりとおろして目を開けると――。



「ハロッピー!」



 陽気な声と共に金髪の色白ギャルが大きな羽を広げていた。

 俺の想像した天使のイメージとはまったく違っており、金の長髪でぶっといつけまつげと派手なカラコンに赤い口紅をしていたが元々の顔立ちは整っているのだと分かる。


「君が……、天使……」

「そうそう! ウチが天使!」

「まさか本当に存在していたとはなぁ」

「あぁ確かにそうだよね、ウチも最初は同じこと思ってた〜」

「……、どういうことだ?」

「実はバイトで天使してるだけで土日は君と同じ人間なんだ〜、マジウケるよね~」


 この時。この瞬間。

 俺の脳みそはキャパオーバーを迎えてしまった。


 天使? 実は人間? バイト?

 何が本当で何が嘘なんだ?

 それともこれもドッキリなのか?


 脳内で疑問が飛び交う。

 だがこれも天使にはお見通しらしく、そこをついてきた。


「やっばぁ〜! めっちゃアタフタしてんじゃん!」

「え、えぇ〜っと〜……」

「下ネタ振られた童貞みたいでマジウケんだけどぉ〜」

「いやいや童貞じゃねぇし」

「……あれれ? 君って本当に童貞?」


 畜生――! 

 それもお見通しなのかよ!

 天使ってすげぇな!


「そんな事はどうでもいいんだよ! よく色々と分かんねぇけど要するにお前は天使ってことだろ!」


 俺はいつもとは違って早口になってしまった。

 面と向かって「童貞なの?」と聞かれると結構恥ずかしいもんだな。今度伊勢佐木長者町でも行こう。


「やっばいマジ可愛い! 天界に連れていきたいんですけど〜」

「やっぱり天界って本当にあるのか」

「モチ〜、もしかして興味ある感じ?」

「まぁどちらかと言えばあるかな――」

「じゃあ……、一緒に天使やろう!」


 天界やら天使やら、まだ本気で信じることは出来ないのだがここまで来たならば行けるとこまで行きたいと思った俺は、ギャル天使に腕を掴まれてタワワな胸を味わいながらこのまま天界とやらに連れて行かれてしまったとさ――。





 



 




  

 

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