第36話

 扉を開くと、あのモノが部屋に立っていた。ただ、じっと、静かに立っていた。

 なぜだろう、待っていたんじゃないかと思えた。シャーリーが来るのをこの部屋で。

扉が音をたてて閉まった。

「お待たせしましたね」

 シャーリーは駆けだした。

 床に刺さっていた短剣を引き抜く。

 黒い手が伸びて迫ってくる。

 飛び退いてそれを避けた。

 勢いはそのまま、壁を走った。

 黒い手がさらに追いかける。

 追う。

 追う。

 追う。

 手が追いついてくる。

 手が届く寸前、

 シャーリーは飛んだ。

 ドレスのスカートがはためく。

 シャーリーは刃をあのモノの仮面に向かって突きたてた。

 これで……!

 刃が仮面に衝突。

 高い金属音が鳴り響いた。

 短剣は弾かれ、シャーリーは床に転がった。

「くっ、」

 見ると、そのモノは平然と立っていた。

 短剣は刺さらず、傷をつけることさえ敵わなかった。

「嘘、……」

 黒い手が大きく口を開いた。

 飲み込まれた口の中は闇。

 夜の闇よりも深く、

 暗く静まり返り、

 溢れ、

 重い闇があるばかり、

 夜の底、

 闇の奥底。

 闇の中にさまよい溶けていく。

 

 部屋の扉が開いた。

「シャーリー!」

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