第33話
「どうすんだよこれ」
シャーリーがキョロキョロと辺りを見回すとヴァイオリンが置いてあった。
「ヴァイオリン……」
近づいて、それを手に取る。
「弾けるのか?」
「弾けないですけど」
シャーリーは弓を弦の上にのせた。
目を閉じる。
ギーコーギーコー
まるで地獄の苦しみに喘いでいるようなヴァイオリンの悲鳴だった。
くまたには耳を抑えた。
「なんじゃごりゃあ!」
赤子は目をパチリと開け、オンギャア! と声を上げて泣きだした。
ギーコーギーコー
オンギャア! オンギャア!
弾き手以外の全てが苦しんでいた。
「やめてくれ! どっちもやめてくれ!」
「しょうがありませんね」
シャーリーはしぶしぶバイオリンの手を止めた。
くまたにはぐったりとしている。
「ひ、ひでえ演奏だ」
赤ん坊は泣き止んでむっくりと起き、二人を見つめた。
「だあ」
赤ん坊は二つの人形に興味を示したようだった。きらきらとした目と笑った口を向けてきていた。なんと可愛いのだとシャーリーは思った。
「俺が引きつけておくから、おまえは先に行ってろ」
シャーリーはくまたにを見た。
「ありがと」
くまたには赤ん坊の前に立つ。
「こっちだ!」
赤ん坊はハイハイをしてくまたにに追いつこうとする。
くまたには魔法を使って浮き上がり、赤子の目の前をするすると飛んだ。
「ああっ」
赤ん坊は楽しそうに手を伸ばし、くまたにを捕まえようとする。
捕まりそうで掴まらないくまたに。
赤ん坊が扉から遠ざかっていく。
「行ってこい!」
シャーリーは扉めがけて走り出した。
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