廻る世界と魔法使い

野薔薇荊棘

第一章 降り積もる雪の中で

起点



 *起点



 それは、視界いっぱいの空だった。

 こんなに真っ直ぐに空を見たのは、いつ以来だろうか。

 きっと遠い昔の話だ。

 あの頃の世界はとても綺麗で……。

 もう悲しいことなんて起こらないんだと、本気でそう思っていた。

 やっぱりそんなの、遠い昔の話だ。

 物語の終わりはいつも突然だから。

 ……寒い。

 三日くらい前から降り続く雪は、きっと今晩も止むことはないだろう。

 銀色に埋もれていく世界。

 冬の冷たい風が、肌に突き刺さる。

 身体中が痛い。

 今すぐにここから離れたいのに……。

 なのに、身体はいうことを聞かない。

 真っ赤な血がついた左手だけが、かろうじて動くくらいか。

 全身がどうなっているのかは、あまり見たくないから確認していないけれど。

 もう限界が近いことは、何となく分かっていた。

 最期くらい、本当のこと、話したかったなあ……。

「ん……?」

 涙で歪んだ視界に、キラリと金色に光るものを見つけた。

 崩れた瓦礫の山の中。

 寄り添うようにすぐ隣りにあったのは、少し錆びた黄金色の額縁だった。

 辺りには明かりなどないのに、何故か額縁や装飾だけはしっかりと形が分かった。

 まるでその絵画自体がほんのりと光を放っているように見えた。

 しかし頭を動かせなかったため、描写されているものを見ることはできない。

 その中に絵が入っているとも限らないのだけれど。

 崩れた時に、どこからか落ちてきたのだろうか。

 一体どんな絵が描かれているのだろう。

 最後の力を振り絞り、その絵に左手を伸ばす。

 ようやくそれに触れた瞬間。

 どこかで、哀しい鐘の音が鳴り響いた――――。

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