マリとマリン 2in1 縁日

@tumarun

第1話 菊と向日葵

 多くの人が交差点でごった返していた。ワイワイと賑やかになっている。


「ゲンキチさん。若い子が多いですねえ。大人を探す方が大変ですよ」


 翔が、周りを見渡して、率直な感想を漏らしている。高校生、中学生。親に連れられている子供に周りを囲まれている。


 通りの左右には幾つもの屋台が並び、若い子たちが各々の興味があるものを覗き買っていた。


「今日は、ここに祀られている大日如来を祝う縁日なんですよ」


 ゲンキチが翔には今日のイベントを説明している。


「ああ、それならですね、通りに屋台が並ぶんですよ。子供達は、それが目標なんですね」


 ゲンキチと呼ばれた青年が説明をしてくれる。話しかけた翔よりも背が高い。でも表情は柔和で人当たりの良い感じがする。


「なるほど、少し前はよく行ってましたよ。焼きそばとかお好み焼きを買ったりして、懐かしいなあ」

「俺はたこ焼きを買いましたよ。ここのは大ぶりなんですよ。頬張ると皮かがもちもち、ホクホクってなるんですよ。美味しかったなぁ」


 ゲンキチは、昔を思い出すように遠く先に視線を向けていく。


「ゲンキチさん、地元ですもんね。是非、食べましょう。聞いてて食べたくなりました」


 そんな話を2人でしていると、


「翔〜」


人垣の向こうから女性の声が聞こえた。


「翔ぅ、どこなりー?」



 翔を探しているようだ。


「あいつ、こんな人だかりで大声を張りあげて、恥ずかしいったらありゃしない」

「まあ、まあ。それだけ頼りにされているんですよ。可愛い彼女じゃないですか」


 そんなことを言われて、翔は考えてしまう。

「彼女? うーん。彼女ねえ」


  腕を組んで翔は考え込んでしまう。


「いたいた。やっとこ、見つけたなり。どこで油売ってたなしか」


 少し、怒気の混じった茉琳の声を聞いて翔は、振り返って声を失った。

 天上から美の神様と、天使が降りてきたと錯覚するぐらい神々しい2人が立っていたのだ。

 ひとりは黒字に菊の花が描かれて臙脂色の帯を締めた浴衣を着て、普段、手入れよく櫛削り流れるような黒髪を結い上げて白い髪飾りをつけた女神。

 もうひとりは白地に向日葵が描かれて黄櫨染の帯を締めた浴衣を着て、普段、手入れもせずに流れるにまかせたままブリーチして黄色髪に染めたものの、染めが取れて地髪が出てしまうプリンの成長した髪を結い上げ、赤い髪飾りをさした子がいた。ただ丁寧に結い上げられたブロンドと見まごう髪と浴衣に描かれたひまわりが、あまりにも調和して翔には天使に見えてしまったのだろう。


「翔? 翔⁈ どうしたなしか?」


 ポカンと口を開けて無言のまま固まっている翔を訝しく思い、茉琳は声をかけた。


「えっ! 何? ウチに惚れ直したなしか? そんなに似合っているなり?」

「似合ってる。うん、似合っているよ。素敵だ」


 間髪を入れずに出た翔の返事に、次は茉琳が固まってしまう。みるみるウチに頬が赤く染まっていってしまった。


「もう、いきなり言われても困るなしー」


 茉琳は赤く染まった頬を手で隠しつつ体をモジモジさせている。

 

 そんな2人のそばでは、


「綺麗ですよ」

「褒めたって何もでねぇーよ。えっ、このすっとこどっこい」

「すっとこどっこい…」


 あきホンとゲンキチさんの間でそんな会話が交わされていた。その実、ソッポを向いた、あきホンの耳も真っ赤に込め上がっている。


気を取り直したあきホンが、


「では、茉琳さん。行きましょうか」

「ヒャ、ヒャイン」


 あきホンに誘われて、茉琳が舌を噛みつつ復帰する。

 チラッチラッと側にいる翔を見ながら歩き始めた、あきホンについて通りを歩き始めた。


「凄いなり、人がたくさんえ。それも若い子ばっかりなし」


 茉琳は左右に頭を回らして興味深く通りを見ている。


「あっ、焼きそば。お好み焼きもあるなり」


 彼女は胸の前で手を握り拳を震わせて、今にも屋台へ突撃していくかに見られた。


「茉琳、まだダメだからね。買うのはお参りしてからだからね」

「えっー」


 翔は、そんな茉琳に飽きれつつ、一言注意する。茉琳は屋台を指差し彼と屋台を交互に見やり、


「そんなあ、あんないい香りしてるなし、ウチの胃が早く入れてって鳴ってるなり」


 途端に


   ぐぅうううう 


 茉琳のお腹が鳴る。


「ふふっ茉琳さんらしいですね」


 あきホンも手で笑う口元を隠し呆れている。

 茉琳は唸る腹を手で隠し、しゃがみ込んで翔達を仰いだ。


「ウチ、そんなに腹ペコじゃないなりぃ」


 頬を真っ赤にして彼女は涙ながらに訴えた。


「そんなに響かせて、大食いだって言っているようなものだよ」

「酷いなりぃ」


茉琳以外がニコニコとしていると、


   クゥ


 またしても、お腹のなる音がする。


「ウチじゃないなり」


 自分以外に揶揄われるより先に茉琳は口に出す。


「じゃ誰が?」


 すると、手を挙げたのは、


「「あきホン」」


 恥ずかしそうに目元を染めて片手を挙げたのは、彼女だったりする。


「私くしとしたことが、お恥ずかしい」 


 彼女は真っ赤になった顔を手で隠し、両耳まで染まってしまう。それを見た男性2人、


「そんな可愛い音を聴かせてくれるなんて。俺、気にしません。なっ! ゲンキチさん」

「はっ、はい! その仕草も凄く艶やかです」


 あきホンは尚更、恐縮して縮こまってしまった。


 その傍では、


「ウチと反応が違うなし、もう知らないなり」


 癇癪を爆発させ、頬を膨らます茉琳がいたりする。


「ごめん、ごめん。その頬をを膨らましてちょっと怒った顔も可愛いよ」


 すかさず、翔はにっこりと褒めてるようで微妙な言葉を茉琳にかけた。傍にいる2人もウンウンと相槌を打っていたりする。


「そう、そうなしか? ウチ可愛い」


 そんな言葉にも彼女の顔は綻び、満面の笑顔になっていった。


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