彼女を寝取られて大炎上。でも代わりに美少女な妹が癒しに来てくれました

中村 青

第1話 いくら傷つけられたと言っても、限度がある?

 俺は今、人生の岐路に立たされている。


 ずっと片思いをしていて、やっとの思いで告白をした先輩。誰が見ても美少女と褒め称える10年に一度の奇跡の生徒会長、目黒めぐろらん

 艶のある漆黒の長い髪。人を小馬鹿に蔑んだ勝気な流れ目、ぷっくりと膨らんだ柔らかそうな唇……。


 あの巨乳とかダイナマイトバディとは無縁な絶望的なまな板、スラっと伸びたハイヒールが似合う女王様気質満載な足。


 ダメで元々、木っ端微塵に振られるならそれはそれでご褒美と思いながら告白した俺だったけれど、ほぼほぼ皆無だと思われていた可能性が実り、俺と先輩は付き合うこととなったのだ。


「いいわよ、私の彼氏いぬにしてあげても。ちゃんと言うことを聞くならば、ご褒美くらいあげてあげてもいいわよ」

「まままま、マジすか⁉︎」


 それからと言うものの、俺は毎日先輩の家まで迎えに行き、先輩の荷物持ちは勿論、お昼の買い出し、マッサージ、etc……。


 え、それってパシリ? いや違う、これは俺と先輩の愛情表現だ。


 先輩にそばにいれるのならば何でもいい。

 むしろ俺のような男が先輩のそばで呼吸を許されるだけでも奇跡、ご褒美……って、キモい言わないで? ひかないで?


 そうだ、俺は幸せだったのだ。先輩の笑顔を近くで見れるだけで満たされていたし、それが俺だけの特権だと思っていた。


 なのに、何で?

 今日は用事があるから先に帰ってと言っていた先輩が、バスケ部の不動のエース、嶽迫たけさこ先輩と楽しそうに彼女の家から出て来たんだ?


 しかも笑顔。俺には見せたことがないような幸せそうな微笑みを、何で他の男に向けているんだ?


 指を絡めて、いわゆる恋人繋ぎ——え、マジすか? 俺もまだしたことがないことを、何で何で何で?


 だが俺は、そんな地獄のような光景を目の当たりにしていながらも、証拠を残す為にスマホを向けて写真や動画を収めていた。

 涙を流しながらも、冷静にレンズを向け続けていた。


「先輩、目黒先輩……っ!」


 この証拠を突きつけた時に、あなたは俺に何と言うだろう?


『駄犬のくせに生意気ね。犬がご主人様に噛み付くんじゃないわよ。アンタは私の犬なんだから、そこでジッと見ていなさい。私が他の男と戯れている様子を、ちゃんと見ていなさい……ねぇ、たきくん』


 妄想の目黒先輩になじられた姿を想像した瞬間、頭の中が真っ白になり、気付いたら俺は先輩関係の戯言を思うがままにネットに公開していた。


 ——百歩譲って浮気はいいけど、犬へのご褒美もなく放置プレイ。ご主人様の風上にも置けない自己中女王。


 ——忠犬だと思ってい舐めていると痛い目に遭うぞ。噛みつきてぇ……(一部抜粋。まだマシな呟き)


 どうせフォロワー数人の凡人以下の負け犬の遠吠えだと思っていた。

 吐き出せればそれでいいと思っていた。


 だが、気付けば俺のスマホから凄まじい通知が鳴り響いていて——俺の呟きには恐ろしい数のリツイート、そしてバッドがついていた。


 そう、俺の暴言が炎上していたのだ。


 ——クソ犬、こんな素晴らしいご主人に逆らうなんてM犬の風上にも置けない!


 ——乙、妄想彼氏(笑)彼女wは一言も彼氏にしてあげるとは言っていないだろう? つまりお前の虚しい一人相撲


「え、えぇ……? え? な、何で俺、ここまで言われないといけないん?」


 急いでアカウントを削除して、スマホの電源を切ったけれど、拡散は止まらなかった。


 ——言い過ぎ、NTRされた側だからと言って無条件に援護してもらえると思ったら大間違いだぞ。


 その他にも多くの罵詈雑言を浴びせられた。いくらネット上のこととはいえ、精神的に堪えた。この間までゲーム仲間だった友達もブロックして知らぬふり。


 もう誰も信じられない——……。


 必要以上は部屋から出ることなく、俺は引き篭もり続けた。ずっと、ずっと引き篭もり続けた。


 それから何日か経ち、落ち着きを取り戻して来た頃……一人の知らない人間が訪問のチャイムを鳴らしてきた。


 人間不信中で普段は居留守を使って無視をすると言うのに、その時だけは何故か出ないとって思い、俺はドアを開けてしまった。


 そこにいたのは、見たことがない儚さを備えた妖精のような美しさを携えた美少女だった。


 透き通るような輝やかしいブロンド。大きな瞳に力強い瞳。そして愛らしい唇も、全部。

 思わず見惚れたくなる極上の美しさだ。


「あの……瀧、たき悠介ゆうすけ先輩ですか?」

「そ、そうですが、誰ですか?」


 彼女は天使のようにニコッと微笑むと、口元に指を当てて上目で覗き込んできた。


「この度は私の姉が迷惑お掛けして、誠に申し訳ございませんでした」

「あ、姉?」

「はい、私は目黒蘭の妹、目黒めぐろ野薔薇のばらと申します。ほら、あなたを裏切って嶽迫先輩と不貞行為を行った、あの女王の風上にもおけない放置女の妹です」


 目黒……野薔薇⁉︎

 想定外の人物の訪問に血の気が引いた。


 クレームか? 姉の代わりに名誉毀損で訴えにきたのか⁉︎

 ガタガタ震える指先。目を逸らして黙り込んでいると、目の前の彼女が手を取ってギュッと握ってきた。


「可哀想な瀧先輩。姉に代わって謝罪致します」

「謝罪? 訴えるんじゃなくて?」

「はい。だって元を辿れば姉の不貞が原因。妹である私が償うのが妥当じゃないですか?」


 妥当……なのか?

 おかしい。いや、おかしくないのか? 確かに浮気をしたのは先輩だけど、その後の拡散は俺が原因で先輩にも被害が出ているはずなんだ。


 もしかして実害は出ていない?

 荒れているのは俺のアカウントだけで、先輩には何も起きていないのか?


「め、目黒先輩はどうしてるんだ? 彼女は、その!」

「先輩を裏切った姉のことなんてどうでもいいじゃないですか」


 いや、よくないんだけど!

 実害が出ていなければ、彼女の口から女王の風上にも置けないなんてツイートした言葉が出てくるはずがない。


 だけどキャパオーバーしてしまった俺に、これ以上のことは考えられなくて、そのまま野薔薇さんを招き入れてしまった。


 満面な笑みを浮かべた彼女は、俺を壁に押し倒した上に頬を押し寄せて唇を尖らせてきた。


「にゃ、にゃにをしてるにょ、野薔薇ひゃん」

「可愛い可愛い瀧先輩。これからは私が先輩の傍にいてあげますからね」


 可愛い儚い美女だと思っていた野薔薇さん。でも彼女のその眼光は、まるで草食動物を射止めようと睨む肉食獣の目だった。


———……★


「そして俺の性癖は、更に歪んで取り返しがつかなくなる」


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