君のいない、君の街

スギモトトオル

本文

雨が降る。

君の街が灰色になって、ずっとしとしとと溶けている。

世界なんて、なくなってしまえ。


雨の日に、こうやって恨みがましく空模様を見上げるのは、

その向こうにある蒼穹そうきゅうと入道雲の季節が憎いからなのかもしれない。

だって、この街のどこにだって。君はいないのに。もう君はいないのに。

僕のいるこの世界の、どこにだって。


街にひとりぼっちになってしまったなあ。

ああ、雨樋に絡まったツタの葉から大きな雫が垂れる。

その深い緑色で、何だって染め上げればいいのに。

僕はなぜかまだ屋根の下にいる。湿っぽい街のいきれがこみあげて来る屋根の下で。

雨に溶けていってしまいたいなんて願っていても。

君のいないこの街でも生きていくんだろうか。

やがて止んでしまう雨が降る、この街で。

君を忘れたくないと、願っていても。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君のいない、君の街 スギモトトオル @tall_sgmt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ