第89話 また一緒に遊ぼうね
さて階段を上り終えて宝物庫に出ると、
「お待ちしておりました」そこにはミラがいた。「よかった……目が覚めたんですね」
どうやらテルの様子を見に来てくれたらしい。
テルがアレスの背中から手を振って、
「うん、もう大丈夫だよ。そっちはどう?」
「アレスさんのご活躍により、すべて解決しましたよ」解決するのはこれからだろう。「政治のことはご心配なく。僕がなんとかしますので」
「もともと私たちに政治のことなんてわからないから、そこはミラに任せるよ」
そのとおりである。アレスは所詮政治の素人だ。綺麗事だけで文句を言うのは筋違いだ。
さてミラは背筋を正して、
「テルさん……」
「なに?」
「申し訳ございませんでした」いつもよりも一段と深い謝罪だった。「僕の軽率な言動により……テルさんを深く傷つけてしまいました。許してほしいなんて言いません。なんなりと罰は受けましょう」
……
それを謝るためにこの場所まで来たのか……
別にミラは悪くないだろう。ミラが『獣人なんて所詮は獣。早く処刑すべき』なんて言ったのは、ミラの母親が獣人に殺されているから。
ミラが獣人を恨むのは無理もない。そしてテルが獣人の娘だと気づかないこともあるだろう。だからミラが悪いわけじゃない。
「大丈夫大丈夫」テルは軽い口調で、「全然気にしてないよ。お父さん……獣人さんが悪いことをしてたのは事実だし。それで……ミラのお母さんを殺したことも事実なんだと思う」
「……テルさん……」
「罰を受けるなら、むしろ私のほう。真実を隠してキミと仲良くなりたい、なんて思っちゃった。最初から事実を伝えてれば良かったんだよ」
それは……どうだろう。テルにだって隠したいものはある。ほとんどバレている状態と、自分から言いだした状態は違う。
それからミラがまた頭を下げる、寸前にテルが先に言った。
「よし……この話は終わり」
「ですが……」
「どっちが悪いとか良いとか……私にはわからないよ」難しいことは苦手なやつだ。「私はミラのことが好きだし、友達でいたいって思ってる。ミラの悲しそうな顔は見たくないよ。それだけじゃ、ダメかな……?」
お互いに笑っていられたらそれでいい。
「……テルさん……」ミラは頭を下げかけて、途中でやめる。「ごめんなさい……いえ、違いますね。ありがとうございます」
「うん」テルが満足ならアレスはそれでいい。「じゃあね。また一緒に遊ぼうね」
「はい……また、メイドカフェにでもお邪魔させていただきます」
「ミラなら大歓迎だよ。お客としてでもバイトとしてでも」
「……また王宮を追い出されたら、そちらで働かせてもらいますね……」
遠くない将来にバイトしてそうだな。国王あたりとケンカして王宮を追い出されそう。まぁ最終的にはまた王族に戻るんだろうが。
とにかくミラなら大丈夫だろう。実力も精神力も一流の人間だ。
……
まぁいろいろと心残りもあるが……
とりあえずは解決かな。
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