無冠の帝王と呼ばないで~最強だがツイてない男(自称世界で一番ツイてる男)が面倒事に巻き込まれる話~

嬉野K

無冠の帝王

第1話 反面教師のお手本みたいな奴らだな

 牢屋の中で拘束されている子供たちに向かって、大男が言った。


「安心しろよ、殺しはしねぇ。それに商品価値が落ちるから傷つけたりもしねぇよ」


 言われた子供たちは怯えた様子で体を震わせた。今にも叫びだしそうだったが、口にはテープを貼られていて声を出すことはできなかった。


 その薄暗い部屋の中には大男の仲間たちが10人ほどいた。


 仲間の1人が子供たちに近寄って、


「今回のは上玉だなぁ。高く売れるんじゃないか?」

「そうだな。だからこそ見張りはしっかりしろよ。大金になりそうな予感があるからな」

「金が入ったらどうする? 今度は貯金でもするか?」

「バカ言えよ。金なんてガキを売れば簡単に手に入るだろ。またいつもみたいにギャンブルとか女とかに使えば良いんだよ」


 大男たちは下品な声で大笑いする。それを見ていた子供たちはさらに萎縮した様子で、多くの子供たちが涙を流していた。


 子供たちは身を寄せ合って震えていた。これから自分たちがどうなるのか、子供なりに理解しているようだった。


 そんな部屋の中に、突然若い男の声が響いた。


「子供を奴隷として売り払って自分は贅沢三昧かよ。反面教師のお手本みたいな奴らだな」


 扉を開けて現れたのは、背の高い男だった。腰には日本刀を帯びている。


 余裕を感じる笑みを浮かべていた。しかし油断はなく、部屋の内情を一瞬で見回していた。


「なんだお前……!」大男たちは突然の来訪者を見て戦闘モードに移る。「ここになにしに来た……?」

「たまたま散歩してたら悪党を見かけたんでな。ぶっ飛ばしておこうかと」

「ぶっ飛ばす……?」大男はバカにしたように笑う。「お前1人で……? こっちは10人もいるんだぞ?」

「問題なさそうだな」

「大した自信だねぇ……」言ってから、大男はなにかに気づいた様子で、「……ちょっと待て……お前、アレスか?」


 アレス、と呼ばれた背の高い男は余裕の笑みのまま、


「俺のこと知ってんのか?」

「当然だろ。って言えば有名人だぜ」


 無冠の帝王。その言葉を聞いたアレスはゲンナリした表情で、


「その呼び方、やめてくれよ……別に好きで無冠でいるわけじゃないんだからさぁ……」戴冠したいものならしたいのだ。だがどうにも勝負弱くて、ギリギリのところで優勝とかができないだけである。「まぁ俺が勝負弱いのが原因だから自業自得なんだが……とにかく無冠の帝王って呼ぶのはやめてくれよ……」


 無冠の帝王というのは、当たり前だがなにも冠を持っていない人物を指す言葉だ。実力を認めてもらえるのは嬉しいが、やはり無冠じゃない帝王になりたい。


 さっさと戴冠したいものである。そうすれば無冠じゃなくなる。


「とにかく……」アレスは気を取り直して、「そっちの子供たちは返してもらうぜ。抵抗したいならご自由に」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る