キュッチャニア・ストーリーズ

清水茶の助

第1話 キュブスキー教授

キュッチャニア、それはその存在をインターネット上でささやかれるモモンガたちの国である。キュッチャン総統に統治されるモモンガたちの楽園だという。これはそんなキュッチャニアの日常である。


「やはりドングリクッキーにはたっぷりバターとお砂糖が必要きゅー」

「お砂糖が多いと中年男性には糖尿の危険があるきゅー」

「でも甘くないのは悲しいきゅ」

「なら代わりに最近研究所で開発されたキュブ味を足すきゅ。これは体に良くてしかも甘いらしいきゅ」

「でもそれ入れると七色に光るきゅ」


大学の講義室でモモンガたちが激しい議論を重ねていた

キュッチャニアでは学問に力を入れており、「おいしいドングリクッキーの作り方」「ドングリの効率的な収穫方法」「全裸中年男性の生態」など多様な学問が学ばれている。しかし、キュッチャニアは「ソ連」の影響によりドングリ共産主義を国家の精神的な支柱としており他の思想を学ぶことは反体制的であるとされ禁止されている。


「みんな朝から元気で結構だきゅー」

「キュブスキー教授!」


教室に初老のモモンガが入ってきた。キュブスキー・キョムキョムはこの大学では変わり者として有名な外国語の講師だ。あるモモンガは教授が禁止されている外国の思想に造詣が深いといい、また別のモモンガは超能力を使うと噂する。何にせよ噂が絶えないモモンガである。


「教授。今日は何の講義きゅ?」

「今日は現実について話すきゅ」


キュブスキー教授の言葉に講義室がしん……となった。

「はじめるきゅ。みんなは今手元にあるドングリクッキーが本物だと思うきゅ?」

「絶対本物きゅ!こんなに甘くて美味しいきゅ!」

太ましいモモンガがポロポロとクッキーをこぼしながら答えた。

「汚いからやめてほしいきゅ」

「そのクッキーは僕のだきゅ!返すきゅ!」

にわかに講義室が騒がしくなった


「静かにするきゅ。しかし、脳にプラグジャックしてもクッキーを食べてるように感じるきゅ。ここが問題きゅ」

「たしかにそうだきゅー」

「VRドングリクッキーだきゅー」


「西欧の哲学ではCogito ergo sumというのがあるきゅ。我思う、ゆえに我あり」

「難しいきゅ!」

「この世のすべてが偽物や虚構、VRだったとしても考えるモモンガ本人は疑えない、事実だという考えきゅ。まあこれはざっくりした説明だきゅ」

そう言い講義室を見渡す。もはやしゃべるモモンガはいない。これは禁止された海外の思想ではないだろうか。1名を除きそう疑い初めていた。

一方、太ましいモモンガはクッキーを食べ続けていた。


「人間は考えることを大切に思ってきたきゅ。Ego sum cogitansというのもあるきゅ。でも考えてると思わされているだけの可能性はどうだきゅ?実は我々はプログラムだったり脳に電線指してるだけではないきゅ?あるいは神にそう思われされているだけではないきゅ?」

一人のモモンガがついに立ち上がった。

「教授!それは危険きゅ!ドングリが絶対であるドングリ共産主義に反するきゅ!」

「その通り!その聡明な学生モモンガの言うとおりであるきゅ!」

ドアを乱暴に開け放ち制服姿で武装したモモンガたちが講義室に入ってきた。


ワッペンの紋章はキュッチャニア内務省治安維持局のものであった。


キュッチャニア内務省治安維持局

キュッチャニアの国家警察でありスパイ組織でもある。


「キュブスキー教授の発言は明らかに西側の退廃思想だきゅ。ようやく尻尾を表したきゅね。この場で逮捕するきゅ!やるきゅー!」

「「「きゅー!!!」」」

完全武装の局員モモンガたちがキュブスキー教授を取り囲んだ


「君たちこそ少しは考えたらどうかね?せっかくの思考するモモンガなのに」

「うるさいきゅ!」

「この世界が、ドングリが実在すると誰が保証できるきゅ?証明できるきゅ?虚構の可能性は本当にないきゅ?」

「きりきりあるくきゅ!」

局員モモンガが手錠をかけ銃口を突きつけ歩かせようとする。

「無駄だきゅ。君たちは何も分かってない。世界は虚構と実在の重ね合わせだきゅ」


キュブスキー教授はそう言うと踵をとんと鳴らすと講義室が光に包まれた

「西側の新兵器きゅ!」

「手品きゅ!」

数秒ののち光が消えた。

講義室はおろか建物自体なくただの原っぱに机が1つあるだけだった。

その机の上には山のようなドングリクッキーがおいてあった。

「どういうことだきゅ!」

「消えたきゅ!」

モモンガたちは騒然となった。


「そういえば誰か足りない気がするきゅ」

「我々は誰を逮捕にきたんだきゅ?」



「とりあえずドングリクッキー食べていいきゅ?」

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