第17話小町ちゃんがやってきた
ゴールデンウィークが終わり、6月に入って本格的な雨のシーズンがやってこようとしていたある日、温也と郷子が部活を終えて二人で帰って、温也が玄関に入ろうとすると、庭先から子猫の泣き声が聞こえてくる。
「郷子~。俺んちの庭の方から子猫の鳴き声がするんじゃけど、ちょっと一緒に探してくれへんか?」
「子猫?ふーん?いいよ。一緒に捜しちゃげる」
そして、庭の物置の陰に隠れて雨に濡れてふるえながら鳴き声を上げている白と茶色の毛が混じった子猫を発見。
「親猫とはぐれたのかなぁ?おぉよしよし。寒かったねぇ。郷子、ちょっと乾いたタオル持ってきてくんない?」
「OK。あっくん、その子少しの間抱きしめてあげててね。ちょっと取りに行ってくる」
「頼んだでぇ」
それから少しして、郷子がタオルを何枚か持ってきて、温也と二人で玄関に連れて行って、ぬれた体を優しく吹いてあげた。その子猫は安心したのか、それとも雨に濡れて、寒さでふるえていて体力的に限界だったのか、目を閉じて眠りについていた。温也は段ボール箱の不要になったタオルや新聞紙を敷き詰めて、そっと寝かせて、その上から体が冷えないようにしてタオルをかけてやって、しばらくの間様子を見ることにした。それからネットで調べて、まだ母猫のおっぱいが必要な時期ということで、母猫が近くで子供を探してる様子がないか、見て回ったが、母猫が近くにいる様子もなく、二人で様子を見ながら、近くの動物病院に子猫が目を覚ましたら連れていける準備をして、温也の部屋で待つことにした。
「あの子猫ちゃん、どこかで飼われていたのかなぁ?全然人を怖がる様子もなかったけど…。」
「そうやなぁ。人なれしてる感じはあったよね。母猫も近くにはいないみたいやし。捨てられたんかな?」
「今朝までずっとここしばらく雨が降ってたから、寒かったやろねぇ」
やがて瑞穂がパートから帰ってきた。
「ただいま~。ねぇ温也、玄関の子猫どうしたん?」
「あぁ、お帰り。今日学校から帰ったらね、家の庭の物置の隅で寒さに震えながら鳴いていたのを見つけてね、それで、体が濡れてたから水気を拭き取ってあげて、体がこれ以上冷えないようにって玄関に段ボールを置いて、新聞を敷いて、古いタオルをかけてあげたの」
「すいません、私もお邪魔してます。大丈夫かなぁ…」
そこに泉も帰宅してきた。
「ただいまぁ。あれ?このニャンコどうしたの?」
「うん。迷い猫。多分どこかで母猫とはぐれてしまったんやろうと思う」
「ふーん?ニャンコちゃんこっちおいで~」
と、泉が抱きしめようとしても、怖がる様子を見せないので、
「このニャンコ、全然怖がる様子がないねぇ」
そして泉の腕の中で、再び目を閉じて眠り始めた。
「泉、今はそっとしておいてあげなさい。それからちょっと動物病院に電話して、どこか悪いところがないかとか調べてもらうから、ちょっと待ってなさい」
「わかった~。この子女の子やねぇ。かわいい~」
そうして、瑞穂が近所の動物病院に連絡をすると、すぐに連れてきてくれって言うことになった。
「今から動物病院に連れて行くけど、一緒に行く?」
「行く」
と、3人は言って瑞穂の車で一緒に行くことになった。動物病院でうけつけを済ませて、子猫を看護師に渡して、いろいろ検査をしてもらった。血液検査や感染症にかかってないかなどを調べてもらって、幸い異常は見当たらなかった。ただ、何日もお腹を空かせていたため、栄養が足りていないということで、簡単にミルクの飲ませ方などぉレクチャーしてもらって、瑞穂と泉はホームセンターに行って子猫用のキャットフードや猫用のトイレの砂、あとそのほか必要なものを買いそろえて帰宅。その間温也と郷子は動物病院で教えてもらったやり方で子猫にミルクを飲ませていた。
「この子の名前、なんにする?」
「女の子やから、おしとやかに「小町」ってどう?それか、あずさとか」
「それって電車の名前でしょ(笑)。でも、女の子らしくいていいんじゃない?あとは泉ちゃんがどう反応するかじゃね」
郷子は子猫のことが気になりながらも自宅に帰っていった。
やがて二人が帰宅。そして、光も帰ってきた。
「ただいまぁ。あれ?家に猫がいるじゃん。どうしたの?」
「この子ねぇ、うちに迷い込んできたみたいなの。動物病院に連れて行って、検査とかしてもらって、異常はないみたいなの。それで一応猫を飼うのに必要なものを買ってきたんじゃけどね」
「ふーん。それで飼うつもりなの?」
「ねぇ、お父さんいいでしょ?きちんと面倒見るからさぁ」
「俺も。かわいいし、こいつ、人にも慣れてるんだぜ」
「私も猫のいる生活ってあこがれるわ~。かわいい姿見てるだけで癒されるもんねぇ」
「でもいいか、猫を飼うっていうことは、命を育てるっていうこと。やっぱりやめたっていうことは絶対にせんな?大事な命なんやぞ」
「うん。わかってるって。俺たちできちんと世話するから。な、泉」
「うん」
「じゃあ、飼ってもいい」
「ありがとう」
「それで名前は何にするんか?」
「さっき郷子と話してたんやけど、女の子っていうことやから、小町がいいなって」
「小町かぁ。女の子らしくていいんやないか?」
「じゃあ決まり。今度の休みにでも、また首輪買ったり、動物病院で必要なことをしてもらおう」
その夜、郷子にラインで飼うことになったっていう連絡をした。
「名前、小町ちゃんに決まったんやね。じゃあ、あっくんのところにいったら、小町ちゃんに会えるんじゃねぇ。やったー」
郷子も喜んでいた。そして、ミルクを飲む小町の写真を送ったら、
「もう私、小町ちゃんにメロメロ~。かわいい目してるねぇ」
「それで、明日動物病院に行って、いつ頃避妊手術するのかとか、相談して来ようと思うって」
「まぁね。それがいいかもね。今はもう寝てるの?」
「うん、今は雨に濡れる心配とかしなくてよくなったせいか、気持ちよさそうに寝てるよ」
「そうかぁ、今からちょっと小町ちゃんの寝顔観に行ってもいい?」
「今から?お父さんとお母さんにちゃんと伝えてから来いよ」
「わかってるって。じゃあちょっとしたら行くね」
それからしばらくして、郷子がやってきた。
「こんばんは。ちょっと小町ちゃんの寝顔見に来させていただきました」
「あらぁ郷子ちゃんじゃない。小町に会いに来たんでしょ?どうぞ上がって」
瑞穂が郷子を出迎えた。そして、小町が眠っているリビングのソファーの近くに連れて行くと、
「小町ちゃん、よかったね。もう寒い思いしなくて済むよ。お母さんとはぐれて寂しかったね。もう心配しなくても大丈夫じゃからね」
そう言って話しかけると、小町は小さな目を開けて、あくびをすると、またふかふかの布団にくるまって寝息を立てていた。
「郷子さんいらっしゃい。お兄ちゃんももうすぐ来ると思うよ」
「よぉ、小町よく寝てるやろ?多分母猫とはぐれてしまってから、ほとんど何も食べてなかったんやろうと思う。少し温めたミルクを飲んだら、お腹がいっぱいになって安心したんやろうね。ぐっすりと眠ってたわ」
「お兄ちゃん、ずっと付きっ切りでミルク飲ましてたよ。今度私もミルクあげてみようっと」
「郷子さん、今日は小町の世話してくれてありがとうな。元気にすくすく立派な大人の猫に成長してくれたらいいんやけどな」
「そうですね。私も小町ちゃんのお世話できるように頑張ります」
そうして、湯田家には白と茶色の毛並みの日本猫が新たな家族としてやってきた。これから始まる小町との触れ合いに心躍らせる温也と泉に郷子なのであった。しかし、おしとやかな女の子というイメージで名付けた温也たちであったが、いたずら好きで、やることが物凄くやんちゃなじゃじゃ馬娘へと成長することは、この時の誰にも分らなかったことであった。
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