第2話引っ越しの挨拶
郷子と温也が学校を終えて、家に帰ってからしばらく時間がたった夕方、温也の父、光(ひかり)が引っ越し後初日の仕事を終えて帰宅した。光は大阪にいたころは、JR西日本の乗務員をしており、主に新快速や大阪近郊の路線の乗務を担当していた。その光の両親が山口市内に住んでいて、高齢になってきたので、山口に引っ越しして、両親の近くに居を構えて、何かあったらすぐに駆け付けられるようにしようと、大阪から山口に引っ越すことを決めて、それを伝えたのが前の年の10月の終わり。会社の上司に伝えて、正式な引っ越しの日が4月1日からとなったのであるが、引っ越し直前になって、光の同僚の後輩乗務員がコロナで体調を崩して、1週間ほど出勤できなくなってしまい、乗務員の人数がギリギリになってしまい、乗務員確保のために引っ越しの日がずれてしまって、新学期の始まるギリギリになってしまったのである。温也と泉の母親、瑞穂も引っ越しに賛同してくれて、それまで、大阪のスーパーでのパートを退職して、山口にやってきた。
「山口はいつ来てもええなぁ。温泉はあるし、自然はいっぱいやし。ねぇ、引っ越しの挨拶と片付けが終わったら、ゆっくり温泉にでも行こうやぁ」
瑞穂は山口に来て一番楽しみにしていたのが温泉であった。山口には自分たちの姓と同じ名前の温泉があって、以前から山口に帰省した時は温泉に入りに来ていたのであるが、これからずっと住むことになる山口市の温泉に入って、ゆっくりと疲れを落としたいと思ったのであった。光も温也も泉も、
「賛成~♨」
と言って、夕食を済ませた後に、まずは隣の家や自治会長さんに挨拶に伺って、大阪名物の雷おおこし渡して回った。そして真向いの郷子の家に挨拶に行くと
「はーい」
と郷子の母親の桜が出てきた。
「あのう。私たち真向いの家に引っ越ししてきた湯田と言います。これからお世話になります。これ、お前たちも挨拶せな。」
「僕は温也です。中学2年生です」
「私は泉です。小学5年生です」
そして兄妹二人声をそろえて
「よろしくお願いいたします」
と挨拶した
「はい。こちらこそこれからよろしくね。中2っていうことは、うちの娘と一緒じゃね。あなたぁ。お向かいさんが引っ越しの挨拶に来ちゃったよ」
「あぁ、どうもこんばんは。これからお世話になります。」
奥から顔を出したのは、郷子の父親の望(のぞみ)であった。さらにひょっこり顔を出したのが郷子。
「あれぇ。湯田君来てくれたんじゃ。これからもよろしくね」
「郷子、ひょっとして同じクラスになったん?楽しみじゃねぇ」
「そうよ。同じクラスでしかも私の席の隣なんよ。見た感じ、湯田君めっちゃかっこいいし、背が高いしね。私としてはうれしいわ。また明日学校で会おうね」
「うん」
「それじゃぁ、明日一緒に学校に行こう。お休みねぇ」
「これ、大阪名物の雷おこしです。皆さんで食べてくださいね」
「まぁ。ありがとうございます。またこれからわからないことがありましたら、何でも聞いてくださいね」
「はい、ありがとうございます。それじゃぁ、これで失礼いたします。夜分遅くにお邪魔いたしました」
そして、一旦家に戻った後、入浴の準備を整えて、光の運転する車で温泉街にあるホテル併設の日帰り温泉へと向かった。道中で泉が
「お兄ちゃんさぁ、郷子さんのライン交換とか、せんでもよかったん?」
「あぁ、バタバタしててすっかり忘れとったわ。まぁ、これから学校とか、一緒に過ごす時間も増えるから、そんな焦らんでもええんとちゃう?」
「いやいや。早うせんかったら、他の男に取られてまうで」
「本当お前ってませてるよなぁ。そう言う泉はどうなんや?学校でかっこいい奴はおらんかったんか?」
「別にぃ…」
そんな話をしながら、10分ほどで温泉街に到着。車をコインパーキングに停めて、いざ温泉へ。温泉は浴槽が大きいため、ゆっくり足を延ばして浸かれるため、疲れを落とすのにはもってこい。気持ちよく温泉に浸かりながら、これからのことに思いをはせていた温也であった。
一方、上田家では、引っ越しの挨拶に受け取った雷おこしをお茶と一緒に食べることになって、家族そろって食卓を囲んでいた。
「そう言えば河内長野のおばちゃん、元気にしてるかねぇ?」
ふと郷子がつぶやく。おばの家にはコロナの流行もあって、なかなか行くことが出来ていなかったのであるが、郷子が幼いころから、たくさんかわいがってもらっていたので、大阪の名物のお菓子である雷おこしを食べて、少し会いたさが募ったのかもしれない。そんな郷子の心中を察して、望は
「そろそろコロナも感染症法上5類に移行されて1年がたったし、久しぶりにゴールデンウィークにでも行ってみるか」
と話して、郷子も喜んで、桜も
「そうよねぇ、ずいぶん長い間行かれんかったし、久しぶりに行ってみようか」
と賛成してくれた。
「やったぁ。久しぶりにおばちゃんにも会える~☻」
そうして、もうすぐやってくるゴールデンウィークに胸躍る思いを抱えたまま、さらには温也のことも考えながらベッドに入り、深い眠りに落ちていった。
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