ピノキオは何を自慢しているのか? 〜天狗山〜
早里 懐
第1話
人間たちは最新の技術を集結させて約50年振りにネッシーの大捜索に打って出た。
UMA。
いわゆる未確認生物はこの世に存在するのか?
約90年後にはネコ型ロボットが誕生するというのにもかかわらず、未だに答えが出ていない。
人間が長年議論を交わしてきたテーマである。
そんな中、私は確信をもって言えることが一つだけある。
それは…
"河童"はこの世に存在する。
ということだ。
なぜなら、蔵王に登った時に、妻がそのことを証明したからだ。
よって、私はある仮説を立てた。
"河童がいるなら天狗もいるはずだ"
ということで、本日は山中に天狗が住むと言われている福島県の天狗山に登ることにした。
天狗に会って"鼻高いですね"と言うために。
因みに今日の妻のスケジュールはママ友とのランチ会の後にネイルアートに行く。
1日家を空けるとのことだ。
要するに、私にとっての登山日和ということになる。
さあ、出発だ。
天狗山は白河市に鎮座しているうつくしま百名山の中の一座である。
登山口のある駐車場までは細い砂利道を進んでいく。
所々にすれ違いポイントがあるため、対向車が来ても安心だ。
しばらく進むと大きな駐車場に到着する。
道中の細い道を考えると、天狗山にこのような大きな駐車場があるとは驚きだ。
優に50〜60台は止めることができる広い駐車場だ。
天狗山は様々な花が群生する山で有名らしい。
しかし、今は時期ではないのだろう、休日にもかかわらず、駐車場には私以外に1台しか車が停まっていない。
私は準備を整えて出発した。
因みに駐車場には管理小屋とトイレがある。
トイレは仮設トイレであるため、綺麗なトイレで用を足したい方は事前に済ませておくのが良いだろう。
天狗山登山道の始めは綺麗な沢沿いを歩く。
水が流れる音というのは涼を運んでくれる。
この厳しい残暑をいくばくか和らげてくれた。
道中は所々にお花畑の看板があるが、この時期だ、お花はやはり咲いていない。
目を瞑って花が咲き乱れる様子を想像した。
その後も沢沿いを進んでいくが、里山にしては珍しく川コースや尾根コースなど様々なコースがある。
何回でも楽しめる山だと思う。
私は涼しさを求め川沿いのコースを選択した。
しばらく進むと渡渉ポイントがある。
この渡渉ポイントを超えると若干傾斜が急になる。
しかし、急登というほどではない。
木々の間から差し込む太陽の光を浴びながら気持ちよく歩くことができた。
低山ということもあり尾根にはすぐに到達した。
その時だ。
私は発見してしまったのだ。
ヤツデの葉を。
そう。
天狗のうちわと言われている葉っぱだ。
私はそのヤツデの葉を拾い山頂へ向けて足を進めた。
いよいよ天狗とご対面する時がやって来たのだ。
ドキドキしながら山頂に到着した。
天狗山の山頂は木々が生い茂り、眺望は限られていた。
しばらくの間天狗を探したが見当たらなかった。
やはりそう簡単に会えるわけはない。
私は山頂での出会いを諦めて下山することにした。
山道を下っていると天狗のお庭という場所に辿り着いた。
周りを見渡すと雲板が目に留まった。
脇に立つ高札にはこのように書かれていた。
「天狗に御用の方はこの雲板を鳴らすように」と。
私は身震いがした。
ついに人類の長年のテーマである"UMAは存在するのか問題"に終止符を打つ時がやってきたのだ。
私は手の平に滲む汗を拭い、木槌を握った。
そして雲板を鳴らした。
カーン!カーン!
乾いた音が鳴り響いた。
…。
…。
天狗は現れない。
諦めの悪い私はもう一度木槌を振った。
カーン!カーン!
…。
…。
駄目だ。
いくら待っても天狗は来ない。
私はもう一度高札に目をやった。
なにやら文には続きがあるようだ。
「天狗は全国を飛び回って多忙のためいつも留守にしています。
ここまで登って来てくださった方には申し訳ございません。
悪しからず。
天狗より」
私は肩を落とした。
天狗に会うことができなかったからだ。
UMAに対する人類の探求はまだまだ続くことになった。
諦めの悪い私ではあるが、今日のところは諦めて帰路に着くことにした。
家に着く頃にはすでに妻が帰宅していた。
ランチ会とネイルアートという優雅な休日を過ごした妻はとても満足している様子だった。
そんな妻は私に対して本日施したネイルアートを披露してきた。
「このネイルいいでしょ」
いつもはシンプルなネイルアートだが、今回はチェック柄を入れたそうだ。
妻はとても自慢げである。
なんなら天狗よりも鼻を高くしている。
妻のお洒落への探求もまだまだ続いているようだ。
私はそんな妻に対して「可愛いネイルだね」と言いつつ、心の中でこう言ってやった。
"鼻高々ですね"と。
ピノキオは何を自慢しているのか? 〜天狗山〜 早里 懐 @hayasato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
綿毛の行方 〜日向山〜/早里 懐
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます