人前では物静かなお姉さんメイドは、2人きりになると何故かデレる。
無名のサブ
第1話 からかい上手のお姉さん
—5年前—
「おねぇさん、がんばって。おとななのになかないの。よしよし」
優しくそれでいて幼い声で1人の女性の頭を撫でる小さな手。そんな小さな手で撫でられている女性は前を向き、目の前の少年に抱きつく。
辺りを見ると、高そうな皿が割れていた。多分、彼女がやってしまったのだろう。
「おねぇさんは、おとななのにおさらわってわるいね。でも……」
男の子は、その小さい腕でメイドを優しくハグする。
「おねぇさんはおてつだいをしてたんだよね、ありがとう」
「ごめんね、ごめんね。私、頑張らなきゃね」
女性は子供の様に泣き、男の子は優しく女性の頭を撫でる。
そんな中——
「ぐぅ〜」
男の子のお腹が鳴る。
「おねぇさん、おなかすいた」
「分かりました。……ありがとうございます」
そんな女性の言葉に男の子は疑問符を浮かべ、対する女性は最高の笑顔を見せた。
*
「初太郎様、次の駅です」
鼻をつままれ、強制的に起こされる。二度寝しようとすると手の甲をつねられたので目を開き、寝起きの頭で今どんな状況なのかを考える。
まず、ここはどこだ……?
意識を視覚と聴覚に集中させる。この時に「ぐぅ〜」と言ったお腹の音は聞こえなかった事にする。
辺りをよく見ると、そこが電車なのだとやっと理解する。「ガタンゴトン」と言った音も、この時初めて聞こえてきた。
という事は、この頭にある柔らかい感触はクッションなのだろうか。
「おはようございます、初太郎様」
真上から聞き覚えのある声が聞こえた為、クッションから頭をどかして声の聞こえた方向を見る。
すると、茶色いセーターを着たお姉さんが僕を見つめていた。
髪の毛は長く、ツヤがある。目は黒く、優しく僕を見つめている。
「ふぇ……おひゃよう、お姉さん」
お姉さんにそう目覚めの挨拶をすると、お姉さんは僕の口元にハンカチを当てた。
「ふふ。よだれ、垂れてますよ」
お姉さんは優しく微笑む。
そういえば、クッションがあった方向にお姉さんが居たなぁ……
って事はよだれ垂らしながらお姉さんのおっぱい枕にのっかかってたって事⁉︎
それってなんか凄く恥ずかしい……!
僕は下を向く。そして、何故か凄く顔が熱い。
「そういうのって言わないのが普通なんじゃないの⁉︎」
まわりの人の迷惑にならない様に小さな声で叫ぶと、お姉さんは立ち上がる。
「あら、そうなのですか?」
手荷物を持ち僕の目の前に立つ。こんなに近いと大きな胸はすごく強調されててエロい。
そして目線を少し下げるとそこに見える光景はそう、『ふともも』だ。
スカートから少しはみ出でおり、黒タイツを履いたそのお姉さんの脚はやけにむっちりしていて、
そうやってお姉さんを観察していると、お姉さんはしゃがみ込み、目線が僕より低くなる。
「初太郎様、そんなに私の体を見てどうかなさりましたか? なんか変なものでもついていたりするんですか?」
バレてた!!
目線とかバレてた!!
チラシとか見てるフリしてちょくちょく体見てたのバレてた!!
……そんな事よりも、だ。
スカートからパンツ。ギリ見えてますよ、お姉さん。
色はピンク、えっちだ……
お姉さんの
「初太郎様、そんな感じだと女性のお友達は出来ませんよ、むしろ嫌われます」
数秒後、お姉さんは僕の右頬から手を離し、僕に忠告をした。
お姉さんというあだ名の由来はあれだ。見た目、ルックスもそうだが、「しおねえみ」の最初と最後の文字を取って見ると見事に「おねえ」になるのだ。別にオネェってわけじゃない。
そこに敬意を持って「さん」をつけるとお姉さんだ。
そんなお姉さんは僕——
僕には父親がいる。かなり大きめの会社の社長だ。お金持ちだ。
だけど、お母さんは僕の物心つく前に死んでしまったし、お父さんも仕事が忙しくて帰って来るのが遅い。だからこそ、僕の面倒を見てもらうために名使いを——お姉さんを雇ったのだろう。
そんなお姉さんには一つ、僕以外の誰も知らない秘密がある。それは——
「女子はそんなすぐに人の事嫌ったりしないよ。よっぽど、ヲタクじゃない限りね」
この際、僕が思い浮かべたのは肥満体型で臭い、典型的なヲタクだ。まぁ、最近のヲタクは風呂入るらしいけど。
「えっ? 初太郎様はヲタクじゃないんですか? この前だっておてつだいポイントで美少女フィギュア買ってたじゃないですか」
お姉さんは、そんな事を言っては少々ニマニマする。
そう、お姉さんは僕をからかうのが好きだ。
母性が出るからなのだろうか。僕には理解できないけど。
「う、うるさいやい! 要するに僕は平気ってこと!」
車内なので小さな声でまたもや叫ぶ。
「そうですか。……別に、女友達がいなくても私が——」
『次はー平塚、平塚です。お出口は右側です』
お姉さんが何か言おうとした所を、電車のアナウンスが遮る。
「私が、なんなの?」
お姉さんに尋ねると、お姉さんは立ち上がってこう言った。
「いいえ、何でもありません。さぁ、初太郎様も立って下さい。降りますよ」
「……わかった」
*
電車から降りた後、お姉さんが車道側(右)、僕が歩道側(左)で手を繋ぎながら住宅街を歩いていると——
「初太郎様」
お姉さんに呼ばれた。
「なぁに? お姉さん」
僕はお姉さんの顔を見上げ、返事をする。
「突然なのですが、初太郎様」
「うん」
突然、何だろうか。こんな所でヤるのだろうか。
いや、そんな事は無いだろ、と自分にツッコんでいると——
「抱っこ……してもいいですか」
抱っこのお願いをされた。
道のど真ん中で抱っこ? 中1が抱っこされるの?
流石に恥ずかしいだろそれ。
「さ、流石にここで抱っこはちょっと……」
「ならばどこで抱っこすれば良いのですか?」
「僕だってもう中学生だし……」
「そんなの、関係あるんですか?」
「うう……」
上手く言いくるめられてしまった。こうなったお姉さんにはもう勝てない。
リュックをお姉さんに渡すと、お姉さんは「いい子です」と言い、頭をなでなでした。
そして、お姉さんの言われるがままに抱っこさせる。
一番最初に感じ取れたのは僕の胸板にある感触だった。おそらくはおっぱいだろう。
何というかその……柔らかい。
何だろう。その、スクイーズよりも柔らかい。ブラをしていてもわかる感触。柔らかい。
聴覚に意識を集中させると聞こえるのはお姉さんの吐息。
息を吸う時、吐く時の声が毎度えっちぃ。
吐く時の「んふ」という声、漏れてしまっているのだろうか。寝息みたいだ。
「そういえば初太郎様」
「ん? なに?」
お姉さんに話しかけられたため、返事をすると耳元で優しく息を吸ったのかと思うと。
「大好きですよ、愛してます」
と、ヒソヒソ声で言われた。
「うぇ!? 何!?」
僕は顔を赤くして驚く。
「そのまんまの意味です。いつもありがとうございます」
と言い、お姉さんは最高の笑顔を見せる。
そう、人前では物静かなお姉さんメイド、その秘密は——
——2人きりになると、何故かデレる。
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