第36話 毎日食べられたら

 いただきますを言い終えた後、俺達は弁当を食べ始めた。俺と泰希のは男が喜びそうな肉が多い物だったが、天鷲と白鷹の弁当は彩り豊かなものであり、とても可愛らしい印象を受けた。



「二人の弁当、なんかすごく綺麗だな」

「お、たしかに」

「えへへ、実は自分で作ってるんです」

「家庭科部で得た知識や経験もいかしたいですからね。それには日々のお弁当作りがいいかなと思って、朝香と相談して自分達で作ってみようもいう事にしたんです」

「なるほどな。俺もたまに母さんの代わりに家で作ったりしてるよ。家庭科部で培った物を使わないのももったいないしな」

「はい、私もそう思います。ということで……柴代先輩、あーんです」



 天鷲は卵焼きを一つ箸で掴むと、そのまま俺に近づけた。



「え?」

「あはは、食べてやれよ。そのままだと腕が疲れるだけだしな」

「あ……う、うん」



 俺は天鷲が差し出してきた卵焼きを食べた。咀嚼している内に砂糖と思われる甘さや卵の旨味が口の中に広がり、俺は飲み込んでから口を開いた。



「美味い」

「本当ですか!?」

「うん。味もしっかりとしてるし、甘い卵焼きは好きな方だから俺としては好みの味だ」

「それはよかったです! 私も甘い卵焼きは好きなので、好みが合って嬉しいです!」



 天鷲は本当に嬉しそうな顔をしていたが、それとは対照的に白鷹は少し悔しそうな顔をしていた。そんな白鷹に声をかけようとした時、白鷹も自分の卵焼きを一つ箸で掴み、俺に近づけてきた。



「し、柴代先輩、あーん……」

「白鷹もか……まあありがたくもらうけどさ」



 俺は白鷹の卵焼きを食べた。咀嚼している内にこちらも風味が口の中に広がったが、こちらはどうやら和風な味付けのようで、出汁の風味や混ぜこまれたほうれん草の味がしっかりと伝わってきた。



「こっちも美味いな。落ち着いた感じの味って感じがして食べててホッとする」

「す、好きな味ですか?」

「うん、これも好きな味だ」

「そうですか……よかった」



 白鷹がホッとする中、天鷲は白鷹を見ながらニコニコした。



「どっちも好きな味だと言ってもらえてよかったですね、陽海ちゃん」

「うん、そうだね」



 二人が笑い合う中、泰希はニヤニヤし始めた。



「普通のラブコメとかだとどっちが好きなのかって聞かれるところだろうけど、この二人の場合はなさそうでよかったな」

「まあ甲乙つけがたいしな。それに優劣なんてないし、どっちも美味しかったからそれでいいだろ」

「お前は甘いんだよ。まあこの二人に対してはそれが最適解だけどな」

「まあな」



 天鷲と白鷹は笑い合いながら嬉しそうにしており、その姿はとても可愛らしかった。そんな姿を見ていた時、ポツリと言葉が漏れた。



「……毎日食べられたら、それはそれで幸せそうだな」



 その瞬間、天鷲と白鷹は同時にこちらを向き、顔を赤くした。



「え?」

「お前なあ……本当にたらしだよな」

「何がだよ?」

「気づいてないならいい。ほら、さっさと食べようぜ。時間が無くなっちまう」



 その言葉に頷いて俺達は食べ始めたが、泰希の言葉の意味はわからずじまいだった。

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