第30話 恋の自覚

 休み明けの放課後、俺は部活動に励んでいた。今日作っているのはクッキーであり、四月に入ってきた新入部員達もぎこちなさは感じながらも作業を楽しんでいるようであり、それを見ていると俺の新入部員時代を思い出すようだった。



「なんかいいな、こういうの」

「そうですね。初々しいというか、見ていてほのぼのとします」

「私達もあんな感じだったですよね、陽海ちゃん。でも、私達だってお姉さんです。一年生の子達が困ってたら手を差しのべるんです!」

「それはそうだけど、その前にしっかりと生地を混ぜて? 手が止まってる」

「は、はいです!」

「柴代先輩も一年生達の様子を見ながら、出来そうなら声をかけて手伝ってあげてくださいね」

「わかった」



 白鷹の言葉に答えた後、俺も作業をしながら一年生の様子に目を向けた。そうして楽しそうにする一年生の様子を眺めながら声をかけるタイミングを窺っていたその時、俺の口の中に何かが入れられた。



「んむ? これ……チョコ、か?」

「柴代先輩、美味しいですか?」

「うん、美味しい。でも、これってトッピング用のチョコチップじゃないのか?」

「だーいじょうぶです。私が持ってきてるお菓子なので」

「そっか。ありがとうな、天鷲」

「いえいえー」



 天鷲がニコニコしながら言い、白鷹が呆れたようにため息をついていた時、それを見ていた一年生の一人が首を傾げた。



「先輩方はお付き合いされてるんですか?」

「ん?」

「え?」

「あ、いえ。なんだかとても親密な関係に見えたので」

「付き合ってないぞ。天鷲とか白鷹からはありがたいことに色々声をかけてもらったり今みたいに何か貰ったりしてるだけだ」

「えへへ、柴代先輩とお話をしていると、胸の奥がポワンとなって、もっとお話したいなってなるんですよー」



 天鷲が頬に手を当てながらにこにこしていると、別の一年生も首を傾げた。



「それって恋じゃないんですか?」

「え……?」

「そうなのかなと思いましたけど……」

「たしかに……」

「わ、私が柴代先輩に……?」



 天鷲の顔が少しずつ赤くなっていく。そしてそれを見た白鷹が少し複雑そうな顔をしていると、クラスメートの女子がクスクスと笑った。



「でも、柴代君には昔から好きな人がいるんだよね」

「え……」

「あれ、そうなんですか?」

「そうだけど……って、なんでそれを知ってるんだよ?」

「秋田君から聞いたの。秋田君のお姉さん……たしか夕希さん、だっけ? いまどんな感じなの?」

「どうって……一緒に出掛けたり飯食ったりしてるだけだよ。まあ今度一緒にランニングはするつもりだけど」



 それを聞いた天鷲と白鷹を除いた女子達がキャーと黄色い声をあげ、男子達が興味津々な顔をしてくる中、俺は作業をしながら夕希さんの話をする事になった。

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