第26話 二人きりの家

 家に帰ってきた後、俺達は傘立てに傘を置いた。



「えへへ、おじゃまします」

「ど、どうぞ……」



 俺はとてもドキドキしていた。でも、それはそうだろう。好きな人が家にいるだけじゃなく、親もいない二人きりの状態なのだから。だからか、夕希さんとしたい色々な事の想像はしてしまうが、俺はそれをどうにか抑えていた。



「そういえば、しば君のお父さんとお母さんは?」

「いまは旅行に行ってるのでいないです」

「そっか。それじゃあ二人きり、だね」

「そ、そうですね……」



 強調するように言われて俺の心臓の鼓動は更に速度を増す。夕希さんが恋人だったら二人きりだからこその事をしていたし、たぶん俺の方から求めていただろう。だけど、俺はその事を口には出さなかった。興味がないわけではないし、相手が夕希さんならそれはとても幸せだろう。けれど、まだ子供の俺とそんな事をさせて、夕希さんにいらない覚悟をさせたくないのだ。



「な、何か出しますね」

「うん、ありがとう」



 靴を脱いで俺達はリビングに向かった。そして夕希さんに座ってもらい、俺はコーヒーを淹れて、市販のクッキーを皿に盛ってテーブルまで運んだ。



「どうぞ」

「ありがとう。ふふ、コーヒーのいい香り。それじゃあいただきます」



 夕希さんはティーカップを持つと、上品さを感じさせる所作で一口飲んだ。そしてそれが喉を通っていく様子を見て、それがたまらずセクシーに見えてしまい、俺はコーヒーではなく唾をごくりと飲んでしまった。



「ふう、美味しい。いつもお父さんとかに淹れてあげてるの?」

「はい。前に一度淹れてから淹れる機会が多くなって、いつの間にか俺の当番みたいになったんです」

「へえ、そうなんだ。こんな孝行息子に育ってくれてお父さん達も本当に嬉しいと思うよ」

「そんなでもないですよ。俺に出来る事はそういうちょっとした手伝いくらいですし、これまで育ててもらった恩もありますから」

「それだけでもお父さん達からすれば嬉しいんだと思うよ。ウチの父さん達も羨ましがると思うしね」

「ふふ、そうですか」



 そして俺達は、リビングでコーヒーを飲んだりクッキーを食べたりしながらのんびりと過ごしていた。その中で夕希さんは色々な話をしたりクスクス笑ったりしていたが、その声や笑顔はとても心地よく、もっと聞きたいしそばに居続けてほしいと思える程だった。



「……二人きり、か」



 夕希さんはポツリと言う。その瞬間、さっきまで無くなっていたはずのドキドキなどが戻ってきた。そして夕希さんは身を乗り出して顔を近づけてきた。



「ねえ、しば君」

「は、はい……」

「高校生、それも三年生って事はしば君もそういう事に興味があって、実際にしてみたいって思ってもおかしくない時期だよね」

「そ、そういう事というのは……」

「わかってるくせに」



 夕希さんはクスクス笑うと、大人の色香を漂わせながら更に顔を近づけ、俺達の鼻先があと少しで触れるというところまで夕希さんの顔は近づいていた。



「私としたいんでしょ? エッチなこと」

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