第4話

取り急ぎ店名で検索して、水樹たち「探偵社アネモネ」のメンバーがその地図どおりに向かうと、狭い路地にひっそりと佇む喫茶店に辿り着いた。小さな看板に、店名として「まんまる白うさぎ堂」と書かれていた。その文字は、白いウサギのシルエットに囲まれている。店の外観は、古びた木造の建物で、屋根に敷かれているのは瓦。窓には、色とりどりの花が飾られて、和紙のカーテンが垂れ下がっている。

その扉の前に一人の青年が立っていた。何より目立つのは、陽光を反射する銀色の髪だ。次に、ストロベリークォーツを眼窩にはめ込んだような双眸。グレーのタートルネックにネイビーのチェック柄のパンツを合わせて、黒い革靴を履いている。

元より細身の水樹よりも痩せっぽちで、とても強そうには見えないが、彼がカノープスの同業者なのだろうか。警戒を怠らない方が良いだろう、と思った時には、陽希が声をかけていた。

「こんにちはー。貴方がアルネブさん? 俺、『探偵社アネモネ』の陽希って言います」

 マーマレードジャムのような色の髪を掻きながら、銀髪の青年に寄っていく姿は無防備そのものだ。陽希自体の運動神経が抜群だから、余裕があるという理由もあるだろうが、先にカノープスを招き入れた反省はないらしい。

 銀髪の青年は、きょとんとした後、にこりとして胸に手を当て、頭を下げた。

「陽希様。お世話になっております。私は確かにアルネブです。カノープス様から大抵のお話は伺っております。私も、『殺人犯のみを狙った連続殺人鬼』に関しては情報を持っておりますので、貴方たちにお伝えしようと思いまして。ほかに、私に協力出来ることならさせていただきますので、何なりとお申し付けください」

「本当? アルネブさんは優しそうな人で良かったなぁ。カノープスって人、ヤバかったからさ」

「ふふ。カノープス様は少々血気盛ん過ぎるところがありますからね。私はプロです。むやみやたらに攻撃を仕掛ける方が、逮捕されたり、返り討ちに遭ったりする可能性が上がる。故に、依頼のない殺しはしませんから御安心を」

「矢張り、逮捕されたり殺されたりしたくはないのですね」

「この世界に、逮捕されたり殺されたりしたい人間なんていませんでしょう?」

 アルネブは、理人の質問に、正気を疑っているような顔をして、それから笑みを作り直した。

「陽希様たちにおかれましては、今日、此処まで御足労いただき申し訳ございません。実は、このお店に入ってみたかったんですよ」

如何にも怪しいが、水樹と理人も自己紹介をした。

アルネブが店の扉を開けると、扉には鈴がついており、優しい音が響いた。水出しコーヒーの香りと、和菓子の甘い匂いが混ざり合って、落ち着いた空気を醸している。カウンターには、ウサギの形をしたクッキーやマフィンが並んでおり、壁には、ウサギに関する絵本や雑誌が飾られている。テーブルや椅子は、すべて木製で、シンプルだが温かみのある雰囲気を作り出していた。

アルネブは、喫茶店のカウンターに座って、メニューを開く。隣に座った水樹の目にも飛び込んで来るくらい大きく書かれているのは、抹茶と白玉のウサギパフェという文字だった。

「水樹様も、何か御注文なさいませんか」

「僕は……アルネブさんと同じものにします」

 正直、たいして食欲も湧かなかった。

「責任重大ですね。しかし、大船に乗ったつもりでいらしてください。私は、自分の好きなものに対しては、一切の妥協を許さないのです」

と、宣言すると、そのパフェを注文した。アルネブは、甘いものが大好きな青年のようだ。鼻歌交じりにパフェが運ばれてくるのを待っていた。そして、ポニーテールの女性店員によってそれが届くと、目を爛々と輝かせて小さく拍手する。

「私の想像を超えています。美しくて、可愛らしい」

パフェは、抹茶のアイスクリームやゼリー、白玉やあんこなどの和風の素材で作られていた。そして、白玉をウサギの形にして、チョコレートで顔や耳を作っていた。更に、フルーツとして、イチゴとブルーベリーが添えられている。

アルネブは、さっそくソーダスプーンでそれをひと匙すくって、口元に運んだ。直後、目をまん丸くする。

「美味しいです。イチゴは真っ赤で甘酸っぱいですし、ブルーベリーは深紫で、それぞれ色も味も、抹茶の風味と相性抜群。抹茶のほろ苦さと白玉のもちもち感のコンビネーションも感動しました」

アルネブは無邪気に声を弾ませた。本当に、犯罪で金を得ているのか判断がつかないほど、無垢に見える。

しかし、理人だけがずっと動かない恵比須顔のまま、アルネブが口を拭き終わるのを待って、冷静に問うた。

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