第3話

早速、スカイブルーのソファに金髪の青年を座らせると、陽希もその空いたスペースに座った。

「うちの事務所のビル、階段しかないじゃん? この依頼人さんが、事務所の下で困ってるみたいだったからさぁ、負ぶって連れて来たんだー」

金髪の青年は、爽やかな笑顔で「お世話になりました」と小さく頭を下げた。水樹と理人は、彼と陽希の向かいの椅子に座って、同時に小首を傾げる。

「依頼人とは知らず、失礼いたしました。お名前を伺っても?」

鹿野かの祐太郎ゆうたろうと申します」

祐太郎は、物珍しそうに事務室を一瞥し、水樹をまっすぐ見て「素敵な事務所ですね」と言った。

「どうぞ、鹿野さん、コーヒー、召し上がってください」

「ありがとうございます」

再び祐太郎は笑みを見せるが、理人が出し、勧めているコーヒーには手をつける気配がない。笑みを仮面のように使い、警戒している様子が見て取れた。

「所長の海老原水樹です。それで、鹿野さんの御依頼というのは……」

水樹が名刺を出しながら静かに口火を切ると、鹿野はそれを受け取り、黒いツイードのジャケットの内ポケットにしまった後、笑みを失くして言った。

「……最近、この辺りで沢山の人間が首を切り落とされ、海に放られているのを御存じですか」

「首を?」

水樹は、自身の裁判等で、この一年の世相には疎くなっていた。理人に視線を送る。しかし、かなり情報通であるはずの理人も、不思議そうに眉を顰めるばかりだった。陽希も、ぽかんとするばかりだ。

「何それ。やべー事件っぽいね」

「ええ。ちょっとした事情があってね、警察も殆ど追っていない、連続殺人事件だ。俺は、アンタたちに、その犯人を見つけて欲しい」

「いや、鹿野さん、警察は何故、そんな大きい事件を追っていないのでしょうか?」

理人は一段と警戒を強めたようで、口元まで強張らせる。

「その事情に依っては、私たちも依頼を請けるわけにはいかないかもしれません」

首を横に振る理人を見ると、祐太郎はジャケットの内ポケットにまた、手を入れた。手を入れた、と思っている間に、理人に拳銃が向けられている。

拳銃。

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