第53話 修羅場その2

リディアが指示した通り、ルークは美味しい料理を次々と試し、その半分をリディアが開発中の街にいるスライムへ自らのスキルで転送しており、そのスライムを通じてロゼッタに届けていた。




「今日もたくさん食べて楽しかったね、ルーク。」リディアが微笑みながら言うと、ルークは満足そうに頷いた。




「主、また一緒に来ようね!」




 リディアはその言葉に微笑みを返しながらも、少しの名残惜しさを感じた。




「もちろんだ。でも、今日はここまでにしよう。僕は宿屋に戻ってセバスの様子を見に行かないと。」




「分かった。主、またね!」




 ルークと別れた後、リディアは宿屋へと向かった。街の景色が懐かしく心を軽くする一方で、セバスの無事を確認したいという強い思いがリディアを突き動かしていた。宿屋に着くと、リディアはすぐにセバスの部屋へと向かった。




 セバスはまだ少し寝込んでいたが、少しずつ元気を取り戻している様子だった。リディアはその姿を見てほっと安堵の息を漏らした。「セバス、少しずつ良くなっているようで良かった。」




 その時、リディアは背後に鋭い視線を感じた。振り返ると、そこには仁王立ちするエレンと、少しおびえた表情のフェンが立っていた。




「エ、エレン?フェン?どうしたの?」リディアの心臓が早鐘のように打ち始めた。(なんだ?エレンがものすごく怒っているようなきがするのだが…)




 エレンは冷静な表情を保ちながらも、その瞳には怒りの炎がちらついていた。「リディアさん、少し話があるの。」




 リディアは内心で動揺しながらも、何とか冷静を装って答えた。「もちろん、何の話だい?」




 エレンは一瞬だけ微笑み、その後真剣な表情に戻った。「別の部屋で話しましょう。」




 リディアはエレンの視線から怒りを感じ取り、少し緊張しながらも頷いた。「わかった、行こう。」








 エレンが先頭を歩き、リディアとフェンがその後を追った。リディアはエレンに聞こえないように、小声でフェンに尋ねた。「エレン、なんか雰囲気がおかしい気がするんだけど、何か知ってる?」




 フェンは少し困った表情を浮かべ、「お前の胸に聞いてみるにゃ!」と返した。




 リディアはさらに混乱し、心の中でノエルに問いかけた。(ノエル、これはどういうことなんだ?)




「マスター、女性の心は複雑ですからね。特に、エレン様がリディア様と親しい女性を目撃した場合、彼女の感情は一層複雑になるでしょう。ルークと先ほど食事をしていたのを見られたのではないでしょうか?」




 リディアはますます困惑しながらも、ノエルの助言に従うことにした。部屋に到着すると、エレンが無言で扉を閉めた。その音が重く響き、リディアの心臓は一瞬止まりそうになった。




 エレンの鋭い視線がリディアを射抜くように感じられた。彼女の目は冷静さを保ちながらも、その奥に潜む怒りがちらついていた。その圧力にリディアは自然と身体が緊張し、心臓が早鐘のように打ち始めた。




(やっぱりエレンがものすごく怒っているような気がする…)リディアは心の中で呟いたが、その思考を整理する間もなく、エレンの圧倒的な存在感が彼を包み込んだ。




 その瞬間、リディアは無意識のうちにエレンの前に正座していた。自分でもなぜそうしたのか分からなかった。ただ、エレンの威圧感と冷静な怒りに対する自然な反応だった。






 エレンは冷静な声で尋ねた。「リディアさん、何か綺麗な女性と歩いているのを見かけましたが、その方とはどういうご関係ですか?」




 リディアは一瞬動揺し、内心でノエルに助けを求めた。(ノエル、どうすればいい?)




 ノエルは冷静に答えた。「マスター、嘘をつかずに真実にかするような説明をするのが良いでしょう。ルークは特殊なスライムで、以前からテイムしていたとお伝えください。」




 リディアは深呼吸してから答えた。「実は、その女性はルークなんだ。ルークは特殊なスライムで、人間の姿に変身できるんだよ。だから、今日は一緒に街を回っていたんだ。」




 エレンは少し驚いた表情を浮かべたが、冷静さを保ちながら続けた。「そうだったのね。でも、何故そんなことを今まで話してくれなかったの?」




 リディアは申し訳なさそうに頭をかきながら真剣に謝った。「誤解を招くかもしれないと思って、あまり言えなかったんだ。ごめん、エレン。」




 エレンはしばらく考え込んだ後、微笑んだ。「リディアさん、これからはもっと素直に話してね。そうすれば、もっとお互いを理解し合えると思うわ。」




 エレンの表情が微笑に変わった瞬間、リディアはその目の中にわずかに残っていた怒りの炎が和らぐのを感じた。エレンの瞳が優しさと理解に満ちていく様子に、リディアは胸の中でほっと安堵の息を漏らした。リディアとエレンの間の距離がほんの少しだけ縮まった瞬間だった。




 エレンは冷静に微笑み、「それじゃ、セバスの様子を見てくるわ」と言って部屋を出た。




 フェンはエレンの背中を見送りながら、リディアに向かって安心したように息を吐き、「よかったにゃ、リディア。これでエレン様も納得してくれたにゃ」と言った。




 リディアはフェンの耳元で囁いた。「ありがとう。本当によかったよ。でも、これからはもっと気を付けないといけないな。」




 フェンは微笑みながらリディアを見つめ、「リディア、エレン様のこと、大切に思ってるにゃ?」




 リディアは一瞬戸惑いながらも、素直に答えた。「そうだね、フェンもエレンも大切な仲間だし、失いたくない存在だ。」




 フェンはリディアの言葉に驚き、一瞬言葉を失った。少し頬を赤らめながらも、彼はリディアの肩に手を置き、励ますように言った。「にゃー、リディア、あんたちゃんとわかってるにゃ。エレン様もリディアのこと、大切に思ってるはずにゃ。だから、もっと自信を持っていいにゃ。」




 リディアはフェンの言葉に力をもらい、微笑みを浮かべた。「ありがとう、フェン。君のおかげで少し楽になったよ。」




 フェンはリディアの言葉にさらに動揺しつつも、にっこりと微笑み返し、「そんなことないにゃ、リディア。あたしもリディアが幸せでいてほしいにゃ。」と答えた。その声には、少しの照れが混じっていた。




 こうして、リディアとフェンの絆もまた一層深まり、彼らは共に新たな一歩を踏み出す決意を固めた。

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