第33話 ソフィアの真実
第33 ソフィアの真実
ギルドから依頼を受け、リディアたちはクレスト西側にあるクル村へウルフ退治に出かけた。
退治の途中、獣道の横で倒れている若い女性を見つけた。
「おい、しっかりしろ!」リディアは彼女に呼びかけた。
女性ははっと我に返り、リディアを突き放した。
「すまん、驚かすつもりはなかったんだ。」リディアは手を差し伸べたが、女性は顔色も悪く、苦しそうな様子を見せた。
「おい、顔色もすごく悪いけど大丈夫かい?とりあえず、一緒に俺たちと行こう。食べ物くらいは食べさせてやるよ。」リディアは女性をおんぶして村へ行くことにした。
「そういえば、あなたの名前は?」リディアが尋ねたが、女性は無言だった。
無事にクル村に到着し、村長の所へ行く前に宿屋を取り、女性をベッドに寝かせた。それから、リディアと仲間たちは村長のところへ行き、依頼内容であるウルフについて確認した。
村長の家を出たとき、リディアが仲間に尋ねた。「エレン、セバス、フェン。ウルフの討伐を3人で行けるか?」
エレンが応えた。「リディアさん、わかりました。ウルフであれば我々3人で問題ありません。あの女性を看てあげてください。」
リディアが宿屋に戻ると、ベッドに横になっている女性に改めて声をかけた。
リディアは女性を部屋のベッドに横たえ、食べ物を差し出した。「これを食べな。焼いた魔物の肉と、パンをミルクで浸した柔らかい温かい食べ物だ。」
女性は無言で食べ始めた。
「そろそろ名前くらい教えてくれよ。」リディアが再び尋ねた。
「名前なんかない。」女性はつぶやいた。
「じゃあ、ソフィアでどうだ?」リディアが提案した。
「なんでもいいよ…」女性は答えた。
「おう、それじゃあソフィアで。」リディアは微笑んだ。
「妙な男だね…」ソフィアはつぶやいた。
リディアが部屋を出ると、ソフィアは独り言を言いながら食べ物を見つめた。「人間の食べ物だとこんなものか…。でも、この肉、なんなんだ?魔力が濃いのぉ。」
夕食の内容を宿屋の店主に確認して部屋に戻ってくると、ソフィアは食事を終えていた。
「村長がウルフの退治を頼んできた。どうもウルフ以外の化け物もいるようで、気を付けるようにってさ。」リディアが報告した。
「ふん、人間ってのは難儀なもんだねぇ。」ソフィアは皮肉をこめて言った。
リディアがソフィアの顔を覗き込む。「顔色が悪いな、まだよくなっていないな。」その時、小さな蜘蛛が現れた。リディアはそっとそれを手で包み、外へ逃がした。
「なぜ逃がすんだ?」ソフィアが尋ねた。
「人も種族も虫も同じだ。生きていることに変わりはない。無駄な殺生はしないさ。」リディアは優しく答えた。
ソフィアは目を見開き、リディアをじっと見つめた。
その時、階段を上る音が聞こえ、ドアが開いた。リディアが戻ってきた二人に尋ねた。「どうだった?」
フェンが答えた。「何かに襲われたウルフの死骸が二匹あった。こちらで五匹狩ってきました。リディアさんの袋にしまっておいてください。ギルドに提出するので。」
「了解。外に待機しているセバスのところに行ってくるね。」リディアは外へ出てセバスに合流した。
「セバス、お疲れさま。これがウルフ?」リディアが尋ねた。
「はい、リディア様。よろしくお願いします。」セバスが応えた。
リディアは部屋に戻り、「さあ、みんなで食事にしようか。」と提案した。
食事の時間、みんなはたくさん食べたが、ソフィアはあまり顔色が良くならなかった。
「ソフィア、やつれているな。一応、エレンに回復魔法をかけてもらうか?」
ソフィアは首を振り、「いや、休憩させてくれればいい。申し訳ないが、リディアが先ほどくれたお肉をもらえないか?」
「わかった。」リディアは答えた。
翌日、依頼達成を村長に確認し、リディアたちはクレストへ帰る途中の森で武装した集団に出くわした。リディアは瞬時に警戒態勢に入った。
「その白い服を着ている化け物をこちらへ渡せ!」リーダーらしき男が叫んだ。
リディアはソフィアの前に立ち、「お前たちは何者だ?なぜ渡さなければならない?」
男は薄笑いを浮かべながら答えた。「何人か、そいつに仲間が殺されたんでね。」
ソフィアの目が一瞬鋭く光った。その怒りが沸き上がると同時に、彼女の顔の一部が一瞬だけ蜘蛛の形態を覗かせた。「お前たちが、わが子を殺したからだろう~っ!!」彼女の声には激しい怒りと悲しみが混じっていた。
リーダーの男は一瞬たじろいだが、すぐに叫んだ。「うるせぇ!殺してしまえ!!」
十名ほどの集団が一斉に襲いかかってきた。リディアは魔法弾を連射し、一瞬で敵を倒した。フェン、セバス、エレンはソフィアを守るように立ち、彼女の周囲に防御の結界を張った。しかし、エレンとフェンの表情には動揺が見え隠れしていた。ソフィアの怒りに反応して彼女の本来の姿、巨大な蜘蛛の姿が一瞬浮かび上がったからだ。
ソフィアの目は赤く光り、彼女の怒りは周囲に伝わるほどの強さだった。「私はもう逃げない。子供を失った母親の怒りを思い知れ…!」その声は震え、彼女の本来の姿である巨大な蜘蛛の影が背後に浮かび上がった。
リディアは冷静に仲間たちに指示を出しながら、次々と襲いかかる敵を撃退した。エレンとフェンはソフィアの変貌に一瞬動揺したが、すぐに彼女を守ることに集中した。
戦闘が終わり、倒れた敵たちの静寂が訪れた。リディアは息を整えながら、エレンとフェンの様子を確認した。彼らの顔にはまだ驚きと混乱が残っていた。
「ソフィア、大丈夫か?」リディアは優しく声をかけた。
ソフィアは深く息をつき、静かに頷いた。「ありがとう、リディア。私はもう、誰にも奪わせない。」
その時、エレンが一歩前に出て、不安げに言った。「リディア、ソフィアは一体…?」
フェンも同様に尋ねた。「彼女は一体何者なんだ?あの姿は…?」
リディアは二人に向かってゆっくりと頷き、穏やかな声で話し始めた。「みんな、まず落ち着いて聞いてくれ。ソフィアは人間じゃない。彼女はかつてこの地で生まれた精霊で、蜘蛛の姿を持つ化け物だ。でも、彼女は敵ではない。彼女も大切なものを失い、苦しんでいるんだ。」
エレンとフェンは驚きながらも、リディアの言葉に耳を傾けた。
「ソフィアは家族を失った。彼女の子供がこの集団によって殺されたんだ。」リディアはソフィアの肩に手を置き、彼女の怒りと悲しみを感じ取った。「だから彼女は戦っている。俺たちも同じだろう?大切なものを守るために戦っているんだ。」
ソフィアは目に涙を浮かべながらリディアを見上げた。「リディア、ありがとう…。」
リディアは少し考え込み、そして話し始めた。「さて、これからソフィアを安全な場所へ連れて行く必要がある。エレン、フェン、セバス、お前たちは先にクレストへ戻ってギルドに報告してくれ。もちろん、ソフィアのことは黙っておいてくれ。」
セバスが頷きながら答えた。「わかりました、リディアさん。ソフィアのことは秘密にしておきます。」
リディアは微笑み、「ありがとう、セバス。それじゃあ、俺たちは別の森へ行くことにする。後で合流しよう。」
エレンが心配そうに尋ねた。「リディアさん、ソフィアは本当に大丈夫なのでしょうか?」
リディアは頷き、「大丈夫だ、エレン。俺が責任を持って彼女を守る。」
フェンも安心した表情を見せ、「わかったにゃ。クレストで待ってるにゃ。」
リディアはソフィアだけに聞こえる声で言った。「ソフィア、少しの間だけ嘘をついてしまうけど、君を安全な場所へ連れて行く。」
ソフィアは不安そうにしながらも、リディアの言葉に信頼を寄せた。「わかった、リディア。あなたを信じる。」
リディアは仲間たちと別れを告げ、ソフィアと共に別の森へと向かった。道中、ソフィアはリディアに自分の過去を語り始めた。彼女の子供が野盗に殺され、自分もまた追われる身となったこと。その話を聞くたびに、リディアは彼女の痛みを共有し、さらに彼女を守りたいという気持ちが強くなった。
やがて、リディアはソフィアを自分が作っているダンジョンの街へと連れて行くつもりだと告げた。「そこなら君も安全だし、きっと新しい生活を始められるよ。」
ソフィアは驚きながらも、「本当にそんな場所があるの?」と尋ねた。
リディアは頷き、「ああ、私の仲間であるリリィとロゼッタがその街で待っている。彼女たちは信頼できる仲間だ。君のことをしっかりサポートしてくれるはずだ。」
ソフィアは再びリディアに感謝の眼差しを向け、「ありがとう、リディア。本当にありがとう。」
リディアは微笑み、「君が無事でいることが一番だ。安心して新しい生活を始めよう。」
リディアはダンジョンウォークの呪文を唱え、二人は光の中に包まれた。瞬く間に、彼らはリディアのダンジョンの街に到着した。そこには広がる美しい街並みがあり、人々の賑わいが聞こえてきた。石畳の道や花々が咲き誇る公園、活気ある市場などが広がり、まるで別世界のようだった。
リディアはソフィアを連れて、リリィとロゼッタの待つ場所へ向かった。リリィが優しい笑顔で迎え入れ、ロゼッタも温かく手を差し伸べた。
「ソフィア、これからはここで新しい生活を始めてなの。私たちがしっかりサポートするの。」リリィが優しく言った。
ソフィアは感謝の気持ちでいっぱいになりながら、静かに頷いた。「ありがとう、本当にありがとう。」
リディアは満足そうに微笑み、「君はここで新しいスタートを切れる。安心して過ごしてくれ。リリィ、ロゼッタ、よろしく頼む。」
リリィが頷き、「任せてなの。ソフィア、ここで安心して過ごしてほしいの。」
ロゼッタも微笑んで、「私たちがいるから、心配しないで。」
ソフィアは再び涙を浮かべ、「皆さん、本当にありがとう。」
こうして、リディアはリリィとロゼッタにソフィアを引き継ぎ、新たな冒険への準備を整えた。彼らの絆は一層深まり、これからも共に支え合いながら進んでいく決意を新たにした。
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